エピローグ 武器職人のスローライフ
精霊たちと出会い、闇ギルドの残党と激闘を繰り広げ、遺跡でドラゴンと戦ってから──早一年ほど。
「……ふぅ、今日の仕事はこんなもんかな」
俺は店での仕事を切り上げ、夕焼け空を窓からぼんやりと眺めていた。
……あれから、色々なことがあったものだ。
その中でも一番の事件といえば、そう。
「ミアがヴァレリア家のお嬢さまだったなんて、未だに信じられないな……」
半信半疑、とでも言ったらいいのか。
ヴァレリア家と言えばこの国の四大貴族だ、全く現実感がない。
けれど少し前に、ミアを巡って一悶着あったのもまた事実。
窮屈な家を出奔して冒険者になったミアを追いかけ、婚約者を名乗る貴族の男が押しかけてきて、ミアを連れ戻そうとしてきたのだ。
それからは……ミアを守るため、暴走する貴族の男相手に精霊たちと大奮闘した。
挙句の果てには大海蛇龍からもらった宝玉を使い、大海蛇龍を呼び寄せて力を貸してもらうまでに至った。
そして結局、大魔術で街を半壊させかけた貴族の男が憲兵にしょっぴかれるまで騒ぎは続いたのだ。
とは言え、今は……
「ラルド兄さん、ただいま〜!」
「ご主人さま、買い出しが終わりました。今日も色々なお店からオマケをいただいちゃいました」
ミアやマロンたちが、明るい表情で買い物から帰ってきた。
俺たちはこの通り、普段通りの生活を続けている。
ごたごたしたこともあったが、無事にこの暖かな生活を守ることができたのだ。
そして、さらに。
「ラルド。久しぶりに会ったサフィアから伝言。ミアとの結婚式にはちゃんと呼んでって」
「もう、サフィアさんなら呼ぶに決まってるのに」
チョコの言葉に、ミアは赤面した。
チョコの言ったように、俺とミアは近いうちに式をあげることになっていた。
ミアも冒険者を完全に引退……した訳ではないのだが、貴族騒動もあったことでしばらくは落ち着いた暮らしをしたいそうだ。
そんな訳で今、俺はミアとも一緒に暮らしている。
「それとマスター。偶然会ったジグルからも同じことを言われたぞ」
「あいつも呼ぶけど……呑んだくれそうだなぁ」
プラムと一緒に、ジグルの様子を思い浮かべて苦笑した。
冒険者なんて皆そんなものだが、せめて式の日くらいは静かにしてほしいものだが。
「じゃあ、あたしは夕食の支度をするから。ラルド兄さんも適当に仕事を切り上げてね」
「ああ。……ところでミア」
「ん、なに?」
「その兄さんって、これからもその呼び方なのか? もう呼び捨てとかでもいいんだぞ?」
そう言うと、ミアはどこか照れた様子になった。
「うーん。面と向かって呼び方を変えるのはちょっぴり恥ずかしい気もするけど……うん、分かった。じゃあ──あなた。早くお仕事終わらせてね」
ミアはそう言い、ウィンクを残して店の奥の家へと向かっていく。
一方俺は、ミアの不意打ちとも言える可愛らしい仕草にどきりとさせられていた。
「ご主人さま、顔が真っ赤ですよ?」
「……まあ、これも幸せってやつかな」
そう独りごちつつ、俺は店を閉めて掃除を始めた。
──明日もまた、ミアや精霊たちと頑張っていこう。
そんなありきたりな幸せを思い描きながら、今日の仕事も終わっていった。
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