閑話 【武器職人】との出会いその1
……あの人と出会った日のことを、よく覚えている。
家を飛び出して「冒険者として自由に生きるんだ!」って意気込んだけれど、自分の身を守る武器もなかった駆け出しの頃。
当時のあたしは、新米の【武器職人】を探していた。
あたしは【抗魔力】スキルのせいで市場に出回っているアーティファクトも扱えないし、専用の、普通の武器が必要だったから。
ううんと、どうして相手を新米に限定したかって?
それは、その……。
正直に言えば、ファラルナ街までの長旅で手持ちの路銀も心もとなかったから。
「新米の【武器職人】なら、安い料金で武器を作ってくれないかなぁ。冒険者として依頼を受けて、武器の造り主の名前も売ってきます! なんて言えば値切れるかもだし」
……最初はこんな単純で、どちらかと言えば浅はかな考えだった。
けれど実際、世に言う外れスキルと言えど【武器職人】スキル持ちの人は中々見つからなかった。
それは当たり前だった。
何せスキルの数は、細かく分類すれば数百どころか千すら容易に超えるとさえ言われている。
そこで【武器職人】スキル持ちの人を限定して探すとなれば、苦労だってするものだ。
(しかも【武器職人】スキルは外れスキルでかつ、大抵は全く稼げないので、スキルを持っていても全く関係ない仕事をしている人も多いらしい)
けれど【風精の翼】で冒険者登録をして少し経った頃、ようやく新米の【武器職人】……もとい【武器職人】スキルを授かったという人物の噂を聞くことができた。
あたしはすぐにその人の家に向かった。
そしてこう言ったのだ。
「すみません! あたしに武器を作ってください! 一番作りやすい武器……ブロンズソードでもいいんですっ!」
勢いよく言うと、街をゆく人の幾らかは驚いたのか、あたしの方を向いた。
でも、構うものか。
手持ちのお金は日に日に減る一方だし、こちらは一刻も早く武器を手にして依頼へ赴かなければいけない。
武器が安く手に入るなら、これくらいちっとも恥ずかしくないと、そんな思いだった。
……そして少し時間が経って、家のドアが開いて、中から若い男の人が出てきた。
「武器って、君は……」
困惑しながら、少し気の抜けた声音でそう言った男の人は端的に言えば……特段珍しくもなく、どこにでもいそうな人だった。
そこそこの背丈に、少し鍛えているのか引き締まった体つき。
明るい茶色の髪に、火のような緋色のかかった瞳。
……ただし今に比べれば、目つきは尖っていて、気配も鋭かったように思える。
けれど、これが【武器職人】ラルド……ラルド兄さんと、あたしの出会いだった。
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