表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/79

70話 大海蛇龍の宝玉


ミアと一緒に素潜りして、サンゴ礁を眺めて突いてみる。

水の中だから声は出ないけれど、ミアは明らかに瞳を輝かせていた。

やっぱりこの手の綺麗な景色はミアも好むらしかった。

それから水面に浮上すると、ミアが「ぷはーっ!」と声をあげて空気を吸い込んだ。


「魚もサンゴも綺麗だけど、ずーっと潜っているとちょっときついかも……。ラルド兄さん、よくあたしについて来られるね?」


「一応、冒険者を目指して鍛えていたからな」


 すると、ミアは俺の体をちらりと見てから。


「……初めて会った頃にも思ったけど、ラルド兄さんって結構いい体しているよね。やっぱり鍛えていただけのことはあるよ」


 サンゴみたくツンツンと俺の体を突いてきたミアに、何だか笑いがこぼれた。


「ありがとう。そう言ってもらえると、昔鍛えていた頃が報われる気がするよ」


「ふふっ……まあ、だらしない体じゃ困るけどね? そのうち一緒に暮らすんだから……あっ、で、でももう少し先かもって思うけどさ?」


 自分で言っていて恥ずかしくなったのか、俯くミアの顔は少し赤みを帯びていた。

 ……なんだか、こっちまで照れそうになってくる。

 そう言おうとした時、ミアは俯いた姿勢のまま、首を傾げて水中を見つめていた。


「……ラルド兄さん。下、何か泳いでない?」


「下……?」


 気になったので、息を吸って水中に頭を突っ込む。

 すると巨大な青い影が、俺たちの真下を悠々と泳いでいた。

 海色の鱗に、蛇のように長い胴と空を掴むような翼。


「……大海蛇龍シーサーペント!?」


「え、ええっ!?」


 水面に出てそう言うと、ミアも水中に頭を突っ込んでから慌てだした。


「ど、どうしようラルド兄さん!? 今あたしたち丸腰だよ!」


 ミアの言う通り、海の中に武装は持ち込めないし、精霊たちとの距離も遠い。

 どうしたもんかと考えていると、盛大な水飛沫を立て、大海蛇龍シーサーペントが浮上してきた。


『これ、そう恐るな。我は、たとえ相手が矮小な人間であったとしても、我を打倒した者らには敬意を表する。何より、丸腰相手に不意打ちとは我の流儀に反する故、安心するがよい』


 そう告げる大海蛇龍シーサーペントの体には、所々傷が残っていたが、確かにこちらへの敵意は感じない。

 それどころか、その瞳は静かな水面を見つめているかのようだった。


『我は龍。この世における強者にして、最も古き血を引く者なり。強者は己が運命を受け入れ、同じ強者を認める器量を併せ持つが必定。故に我は潔く敗北を受け入れ遺跡から退いた。……しかし』


 大海蛇龍シーサーペントは俺に頭を近づけてきて、静かに告げた。


『我ら龍の素材は、人間の間では高値で取引されると聞く。だが、貴様は我が鱗の一枚すら持ち去らなかった。……それでは、激闘を制した勇者が手ぶらで帰還することにも繋がろう。そこで貴様には、我を下した証として、勲章を授けることとする』


 体をくねらせ、前足を俺の前に持ってきた大海蛇龍シーサーペントは、爪の先で何かをつまんでいた。

 受け取るとそれは、青く輝く宝石のようだった。

 

『古くより大海原の至宝とされる、我が一族にのみ生成可能な魔力結晶だ。水龍の宝玉、とでも名付けようか。それを肌身離さず持ち続けよ。さすれば、我の加護が貴様に与えられる』


大海蛇龍シーサーペントの加護……」


 またとんでもないものを授かってしまったと感じていると、大海蛇龍シーサーペントが体をくねらせ、海の底に帰ろうとしていた。


『ではさらばだ、この時代における勇者よ。我を下したその力、その短き人の生涯でどのように扱うのか、実に興味深い』


 大海蛇龍シーサーペントは最後にそう告げて、ゆっくりと潜っていった。

 恐らくは、深海にでも向かったのだろう。

 それから宝玉を眺めていると、同じく宝玉に視線を向けていたミアが言った。


「あたし、聞いたことがあるの。古くから生きる高位の龍は、自分を下した相手に敬意を評して宝玉を授けるって。でも、そんなドラゴンは冒険者の仲間も見たことないって言っていたから、ずっと与太話だと思っていたけど……」


「どうやらそれ、本当みたいだな」


 しばらくぽかんとしていると、大海蛇龍シーサーペントが現れていたことに気がついたのか、精霊たちやサフィアが泳いでやってきた。

 俺は皆への事情説明を考えつつ、ひとまずこの宝玉は、あの大海蛇龍シーサーペントが言った通りに肌身離さず持っておこうと心に決めた。

 大海蛇龍シーサーペントも、何の力もないガラクタをわざわざ届けにはこないだろう。

 きっと何らかの力を秘めているはずだと、そう強く感じていた。


全国書店にて本作の書籍版が発売中です!


発売から2週間目ですので、まだまだ書店の大判ラノベコーナーに並んでいます。


この土日に書店に行った際はぜひ手にとっていただけると嬉しいです。


竹花ノート先生の素敵なイラストが目印です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ