68話 海上の星
全員で魔道具のカードをちぎり、【転移】魔術によって港町まで帰還した時にはもう、月が空高くに昇る時間帯になっていた。
深い藍色の海面には、満天の星空が映り込み、その中にクラゲのように満月が揺蕩っている。
「綺麗……!」
ミアがそう呟いた時、海面に大きな波紋がひとつ広がった。
次いでふたつ、みっつと波紋は増えていく。
それが海面いっぱいに広がると、深い藍色の水面が弾け、その下から燐光の粒が現れて宙へと浮いた。
「水の精たち……! こんなにいっぱい、はっきり見えるなんて」
シルリアが目を見開いているが、どうやら彼女がこれまで見ていた水の精とは、こういうものであるらしい。
それからアーリトーレは、安堵したように一息ついていた。
「水の精の婚姻は、今晩が最盛だったようですわね。間一髪第七遺跡の機能を止められた、そんなところかしら」
「海がこんなふうになるなら、第七遺跡が水の精に触発されるのも分かる気がするなぁ」
天上は一面の星空だが、水面もそれに負けないくらいに輝く水の精たちに埋め尽くされ、輝いている。
星明りを間近に見ているかのような、そんな気さえしてくる。
「これで第七遺跡から魔物が出てくることも、もうないでしょうし。ひとまずは一安心ですね、ご主人さま」
「マロンの言う通りだ。本当に、ケルベロスたちにはあのまま遺跡で暮らしていて欲しいよ」
でなければ、またサフィアたちが出向いて行くことになりそうだし。
ひとまず、あの広い遺跡の中でのんびり過ごして欲しいと思う次第だった。
「……って、そうだ。遺跡の魔物で思い出したんだけど、あの海蛇龍、もう遺跡にいても悪さはしないよな?」
「はい。遺跡側の機能はわたくしがきっちり停止させましたし……」
「妾渾身の一撃を食らって、簡単に起き上がれるものかっ! マスターと一緒に倒したのだから、当分はあのドラゴンも暴れられぬよ」
大きな胸を張ってそう言ったプラムに、俺は頷いた。
あれだけのダメージがあったのだから、死にはしなくても当分、まともに戦えはしないだろう。
できれば第七遺跡から出て行って欲しいが……そこは当人ならぬ当竜に任せるとしよう。
「それじゃあラルド兄さん、あたしとサフィアさんはギルド船に報告へ行くから」
「うむ。それではまた明日だ、ラルド」
「ああ、二人もお疲れさま」
今回の遺跡攻略では、二人の力も大きかった。
サフィアの力は勿論、ミアの力も相当なものだと改めて思った。
「こりゃ、まだまだミアも現役冒険者かなぁ……」
この港町へは、ミアが心配だからと来てみたけれど。
流石に引退を勧めるにはまだまだ早いなと、そう感じることができたのは確かだった。
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