67話 群青嵐の大海蛇龍 その4
『ぐおっ……!?』
体勢を崩し、口元に収束した魔力を弱めた大海蛇龍。
今の奴は横倒しになり、完全に無防備に思えた。
──倒しきるなら、今しかない!
「プラム、押し込むぞ!」
「妾の力で、奴の鱗を割り砕く!」
瞬時にモーニングスターへと姿を変えたプラム。
俺も勢いのまま駆け抜け、モーニングスターを大きく振るった。
「ウオオォッ!!!」
『小癪な……! だが、小細工なしに正面から迫るとは中々見所のある勇者よ! その姿に敬意を示し、我がブレスで吹き飛ばしてくれようぞ!!』
大海蛇龍は鎌首をもたげ、口腔に群青色のブレスを集約し、奴の全身も同じ色に輝いていく。
口の中で渦を巻いて捻れる重たいその魔力は、さながら嵐のようだと感じた。
群青色の嵐のような圧力を放つ奴のブレスの方が素早いか、こちらの攻撃が先に到達するか。
肌がひりつくほどの、コンマ数秒を競う速さ比べは、
「ふんっ!」
『馬鹿な!? モーニングスターの鎖が伸びただとッ!?』
「妾のリーチを舐めないでもらおうか!」
伸縮自在の鎖を活かしたプラムによって、俺へと軍配が上がった。
神速を誇る大海蛇龍のブレスが放たれるよりもなお速く、モーニングスターの鉄球が奴へと炸裂したのだ。
『ゴハァッ!?』
ガウン! と鱗と鉄球がぶつかり合う音が鈍く轟く。
その直後、モーニングスターの鉄球が輝き、大海蛇龍を覆い尽くすほどの閃光を放って大爆発を起こした。
これが【精霊剣】スカーレットモーニングスターであるプラムの本領、出し惜しみなく魔力を使用した最高の一撃だった。
『が、ああああぁぁあ……』
大海蛇龍はその巨躯を木端のように宙に浮かせ、遺跡の壁へと激突。
そして崩れてきた遺跡の構成材に埋もれ、動かなくなった。
けれど、ドラゴンが簡単に絶命するとは思えない。
恐らくは気絶しているだけだろう。
「アーリトーレ、今のうちに遺跡の機能を!」
「主さま、お任せを!」
アーリトーレは遺跡最奥部の一角、部屋の中心にあるくぼみへと向かった。
きっと太古の昔、【聖剣】アーリトーレはあそこに突き立っていたのだろう。
それからアーリトーレは精霊の姿のまま何かを口ずさむように、歌うかのように紡いでいく。
古の呪文か、はたまた精霊独自の言語なのか、アーリトーレの歌に合わせて遺跡の燐光が薄れてゆく。
静かに機能を停止させてゆく第七遺跡、その最後に、アーリトーレは静かに言った。
「……許して、わたくしの祭祀場。わたくしは古より、人の世を守ると誓った【聖剣】……【精霊剣】。あなたが人の世に災禍を齎すのであれば、わたくしはそれを止める他ありませんわ」
もし第七遺跡に意識があるならば、きっと「分かった」とでも言っていたのだろうか。
遺跡最奥部に残った最後の燐光は、アーリトーレの上に降り注いで、静かに消えていった。
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