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6話 第二の【精霊剣】

「ご主人さま、わたし以外の【精霊剣】は作らないのですか?」


 マロンが現れてから数日。

 店の閉店後、ふとマロンがそんなことを聞いてきた。


「他の【精霊剣】か。注文が入ってた武器もあらかた作り終えて時間にも余裕があるし、試してみてもいいけど……」


「ええ是非、是非作りましょう!」


 マロンは何故か、普段以上にぐいぐいと食いついてきた。

 どうかしたんだろうか? と考えてみると、ふと思い至った。


「もしかして、【精霊剣】がマロンだけだと寂しいとか?」


 よくよく思えば、最近マロンが店の武器をじぃっと見つめていることが多かった気がする。

 あれはつまり、他の武器の精霊とも話したいって意思の表れだったんじゃなかろうか。


 すると、マロンは「いえ、寂しいと言う訳では……!」と両手を横に振った。


「……ただ、他の武器たちに少し悪いかなと思いまして。ここでの生活はとても楽しいです。毎日色んなお客さんとお話しできたり、ご主人さまと毎日仕事終わりにお茶を飲んだり。でも、【精霊剣】ではない武器のままだとそんなこともできないなと、そう思ってしまったのです」


「なるほどな……」


 要するに、マロンは他の武器に対して少し後ろめたくなってしまったと。


「そういうことなら……よし」


 俺は立ち上がって、散らかっていた作業場を片付けた。


「ご主人さま?」


「作ろう、【精霊剣】を。確かに他の武器たちも精霊の姿になれば、マロンと同じように過ごせる。それに俺も他の【精霊剣】の精霊たちとも話してみたいし」


 そう言うと、マロンは「ご主人さま……!」と瞳を輝かせた。


「ただ、俺がスキルで作り出した炉で高速生成できるのは経験値がカンストしているブロンズソードだけだから、他の【精霊剣】は鍛治の要領で作らなきゃいけないよな……」


 となればどの武器を一から作ろうか、と悩んでいたところ。

 マロンが店に置いてあったブラッククロスボウを持ってきた。


「ご主人さま。実は【精霊剣】自体は、このような完成品を基礎として使っても問題ないのです」


「んっ、そうなのか?」


「ええ、大切なのは武器に精霊を宿す力。すなわち【精霊剣職人】のスキルです。そのスキルは、心を込めて作った武器に魂を、精霊を宿す力。ご主人さまはこのブラッククロスボウも丁寧に作られたようですし、精霊を宿すことも可能でしょう」


「精霊、な……」


 でもどうやって宿すんだろうか。

 マロンの時は、ブロンズソードの素材をスキルで作った炉に放り込んで高速生成して……そうか。


「あの炉が、武器に精霊を宿すのか」


 言うと、マロンはこくりと頷いた。


「その通りです。では、こちらを」


 にこりと微笑んだマロンからブラッククロスボウを受け取り、スキルで作った炉の中へ入れた。


 ブラッククロスボウは、遺跡で採掘される【重黒曜石】という特殊な鉱物を素材にして作られる武器だ。

 扱いやすさから新米冒険者向きとされているものの、その実【重黒曜石】自体が魔力を含む魔石でもある。


 そんなブラッククロスボウは、一体どんな【精霊剣】になるんだろうか。

 そう思っていたら、炉からブラッククロスボウが出てきた。


「おぉ……やっぱり外見は元と変わらないんだな。でもマロン、ちゃんと【精霊剣】になっているかな?」


「はい、精霊の反応が確認できますから。……あらっ?」


 マロンが目を丸くした途端、俺の手からブラッククロスボウが浮き上がり、まばゆい光を放ち出した。

 それから目の前に現れたのは、黒のワンピースに身を包んだ眠たげな瞳の少女だった。


「……わたし、【精霊剣】ブラッククロスボウ。よろしくお願いします」


 ブラッククロスボウの精霊はぺこりとおじぎして、舌足らずな声でそう言った。

 見た目もそうだが、中身も少しマロンより幼い気がした。


「ああ、よろしくな。俺はラルド。それでこっちは……」


「【精霊剣】ブロンズソードのマロンです。して、ブラッククロスボウの精霊であるあなたは何とお呼びすれば……?」


 黒い精霊少女は、しばらく「う〜ん」と可愛らしく唸ってから、


「……黒いから、チョコでいい」


 とあっけらかんと言った。


「分かった、それじゃあチョコ。これからよろし……く?」


 話している途中、チョコがしなだれかかってきた。


「どうかしたのか?」


「夜中に呼び出されたから、眠い……。このまま抱っこ……むにゃ……」


 チョコはそう言って、寝息を立ててしまった。


「あらあら、この子ったら」


 チョコを微笑ましげに見守るマロンは、どこか嬉しそうだった。


「ひとまずチョコを寝かせようか。諸々のことは、また明日で」


「ええ、それがよいかと」


 俺はチョコを抱きかかえ、そのまま寝室の方に運んでいった。


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