63話 武器職人と大海蛇龍
「マロン?」
「ご主人さま。【聖剣】も【準聖剣】も失った遺跡が活動を止めていない理由、おおよそ分かりました。間違いなく、この大海蛇龍さんがいるからですね……」
「……って言うと?」
「この遺跡は元々、水中にあったもの。つまり水に住まう者と相性が良く、さらに最奥部に水の【聖剣】の代わりに、水の古代種である大海蛇龍なんて大魔力を持つドラゴンが居座れば……」
「要するに遺跡が、大海蛇龍を【聖剣】や【準聖剣】と同じものと認識して、活動を再開したのか」
ついでに以前、サフィアから「遺跡に出る魔物の力は、最奥部の【聖剣】の力に比例する」とも聞いたことがある。
……そりゃ大海蛇龍なんてドラゴンが最奥部にいて【聖剣】扱いされていれば、遺跡全体の魔物のレベルも跳ね上がろうというものである。
この方、なんてはた迷惑なドラゴンだろうか……。
「その、大海蛇龍さん。実は……」
俺はこれまでの顛末を大海蛇龍に話した。
大海蛇龍が居座っているせいで機能を取り戻したこの遺跡が、活性化している水の精に触発されて水の中へ戻ろうとしていること。
それによって遺跡から魔物が溢れ出れば、大惨事になりかねないこと。
話を聞き終えた大海蛇龍は、ふむふむと、体に比べて細い顎を揺らして頷いた。
『なるほど、それは矮小なる人間にとっての一大事やもしれん』
「だったら」
『しかし、立ち退きは断る』
大海蛇龍は頑なにそう言い、四肢に力を込めて立ち上がった。
「なっ、どうして……?」
『どうしても何も、また我に宿なしになれと申すか貴様は!? やっと見つけた住処から出て行けと言われ、おいそれと立ち退くほど我も甘くはないぞっ!』
「わたくしの祭祀場に居候しているくせに、よくもまぁぬけぬけと!」
怒り始めた大海蛇龍に、さらに激憤気味のアーリトーレ。
……なんか、嫌な予感がする。
『ええい、こうなれば我も徹底抗戦だ。……そこの【聖剣】を持つ男、貴様!』
「えっ、俺ですか?」
正確には、俺が持つのは【精霊剣】だが、あちらからすれば【聖剣】と変わらないのだろう。
『他に誰がいる。貴様、【聖剣】所持者ということは、この時代の勇者であるな? ならば勇者らしく、正々堂々かかってくるがよい! こちらも古代より命をつなぐ大海蛇龍、受けて立つ覚悟は持ち合わせておるわ!』
「……んっ!?」
──さっきまで穏便に済みそうだったのに、どうしてこうなった!?
『ゆくぞ人の子よ! 我をこの遺跡より追い出したくば、力尽くで従えてみせよ!』
「やっ、やっぱりこうなるのか……ッ!」
翼を広げて、咆哮を上げつつ飛びかかってきた大海蛇龍。
突然始まってしまった第七遺跡最後の戦いに、俺はアーリトーレを構えた。
……ちなみに、自分は勇者じゃなくて武器屋の店主ですとは、とても言い出せる雰囲気ではなかった。
【武器職人のスローライフ】全国書店にて発売中です!
特典も五種類ある他、電子版もございますのでよろしくお願いします!




