62話 第七遺跡の現在の主
「遺跡の守護者って……」
前にログレイア回収時に出てきた、ミスリルのゴーレムに相当する者だろう。
この遺跡に出た魔物はどれも、一体で田舎の村や街を更地にしてしまうほどの力を秘めていた。
では、それらの頂点に位置するこの遺跡の守護者とは、どれほどの魔物なのか。
そう思いつつ、遺跡の最奥部へ足を踏み入れる。
『GRRRRRRR……』
真っ先に視界に入ったのは、細長い総身を覆う青白い鱗。
荒波のような形状の甲殻も体の各所に確認でき、四肢は短く、しかし強靭な筋肉が備わっていると見てとれた。
何より特徴的なのは、二本で一対の捩じくれた大角が生え、鋭利な刃物を連想させる牙の揃った頭。
その魔物は、背から伸びる翼を広げ、重々しく告げた。
『我が居城へようこそ、矮小なる者たちよ。我が配下の魔物を退けきるとは、相当の手練れと見える』
存在するだけで大気を揺るがすような声音を発した魔物。
「並みのワイバーンとは比較にならない圧力に、他のドラゴンにはない特殊な身体構造……こいつ、大海蛇龍か!!」
サフィアの上ずった声音に、俺より先にマロンが反応した。
「大海蛇龍、海龍の中でも最大級の巨躯と力を誇るという、古代種の……!」
こちらと対峙する大海蛇龍は、こちらの手の中に収まっているアーリトーレをじっと見つめた。
それから声音を少しだけ明るくした。
『むっ……おお。誰かと思えば、あの大海の【聖剣】か! いやはや、千年ぶりか? 姿は変わっても、壮健そうであるが』
「……んっ?」
この大海蛇龍、アーリトーレの友達か何かなのだろうか。
……とか思っていたら、アーリトーレの怒声が飛んだ。
「げっ、元気も何も! あなたのせいでわたくし、千年も海底にいましたのよ!? 千年前、暴れたあなたを鎮めるためにわたくしや他の聖剣が持ち出され、結局この遺跡も地上へ押し上げられてしまったこと、忘れたとは言わせませんわっ!」
『う、うぅむ。そうか、それは悪いことをした……』
そう言いつつ、うなだれる大海蛇龍。
……もしかしたらコイツ、意外といいやつなのかもしれない。
「というより、なぜあなたがわたくしの祭祀場に我が物顔で居座っているのですかっ! というか、守護者はどうしたのです!」
『無論、ここを我が居城と定めたからだ。我も千年前、お主らに海底深くに沈められて眠らされた故な。つい数十年ほど前に目覚めたら、我が使っていた海底洞窟も崩れ消えていて、住処を求めてここへとたどり着いたのだ。……ちなみにその守護者とやら、我は知らぬが』
「まあ、遺跡の主は五十年前に討伐されたと、ギルドの記録で見たからな。わたしもおかしいと思ったのだ……」
サフィアを見れば、顎に手を当ててふむ、と納得した様子だった。
となれば遺跡の主、もとい守護者は【準聖剣】を回収された際、とっくに冒険者の手で倒されていたのだ。
「……ああ、そういうことですか……」
さらに振り向けば、マロンも何かしら納得した雰囲気を醸し出していた。
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