60話 遺跡への突入
第七遺跡の外観は、白い外殻に覆われた神殿、とでも言ったらいいのだろうか。
巨大な二枚貝の中に遺跡が建っているような、不思議な造りとなっていた。
「……やはりいるか」
『『『GRRRRRREEEE』』』
サフィアが岩陰から様子を窺いつつ、苦々しく呟いた。
見れば遺跡の入り口付近の陰から、三つ首の巨大な狼型の魔物であるケルベロスが現れている。
爛々と輝く赤い瞳が、鋭く周囲の様子を窺っていた。
「ケルベロス、どうにかして突破しないとな……。アーリトーレ、能力を使って遺跡の機能を停止させるって話だったけど、魔物をどうにかできないかい?」
「魔物は基本的に、遺跡の防御機能によって生まれるものですが……残念ながら、生まれ落ちた命までは制御できないのです。あのケルベロスも、倒すしかないでしょう」
「ふむ、では仕方がないな」
サフィアが【聖剣】ラプテリウスを鞘から引き抜いたのと同時、ミアが先行して駆けていく。
猫のような身のこなしで遮蔽物を利用し、音もなくケルベロスへと接近していった。
それからミアが十分な距離までケルベロスに接近した直後、サフィアがラプテリウスの結界を起動する。
「ふんっ!」
『『『……!?』』』
ケルベロスは悲鳴すら上げる間もなく、超重力の結界に捕まり、体を地に縛り付けられた。
同時に【抗魔力】スキルで【聖剣】の影響を一切受けないミアが結界内に突入していく。
「せいっ!」
ブロンズソードを引き抜き、勢いそのままにケルベロスの急所である胸部を一突きにして、倒してしまった。
「おお……早業だな」
サフィアとミアは最近よくパーティーを組んで行動しているとは聞いていたが、二人の相性はかなり良いらしかった。
それにミアの手際も中々で、やはり現役冒険者というのは伊達ではない。
「さあラルド、行こうか」
「早く入らないと、また魔物が出てくるよ!」
サフィアとミアに続き、俺と精霊たちは遺跡へと入って行った。
遺跡はまだ機能が残っているようで、所々の魔石が発光したり、はたまた遺跡の一角が揺れたりもしていた。
「まるで、生き物みたい」
普段通りの眠たげな瞳で遺跡の動きを見ていたチョコに、アーリトーレは言った。
「生き物……ええ、そういう解釈もできるかしら。魔力で生きる要塞にして祭祀場、それが遺跡ですわ。ですから早く最奥部へ向かい、この遺跡を止めないと」
「最奥部、か……」
アーリトーレの話では、【聖剣】が遺跡最奥に核として設置されている理由は「そこが遺跡全体の制御を司る部分であるから」ということだった。
しかし遺跡最奥部を目指すためには、この遺跡の中で増えた手強い魔物たちを突破しなくてはならない。
当然危険は付き物だが……しかしこちらには、脱出用の切り札があった。
「……」
ポケットの中に視線を向けると、そこには一人一枚配られた、魔道具のカードが入っていた。
これは出発前に一人一枚渡されたもので、ちぎると【転移】スキル持ちの冒険者へ伝わり、そのカードの持ち主を【転移】で帰還させる緊急脱出用アイテムなのだ。
ひとまずいざとなれば、これで戻るという寸法である。
「……そろそろケルベロスの群れがいた地点に差し掛かる。わたしが閃光弾で目くらましをするから、全員一気に駆け抜けてくれ」
サフィアの言葉に、全員が頷いた。
それから遺跡の通路が大きく開けていき、広間のような場所に出た途端、サフィアの言った通りに五体ものケルベロスが現れた。
『『『GRRRRR!!』』』
「全員、目をつむれっ!」
サフィアが魔力起動式の閃光弾を放り投げ、ケルベロスの悲鳴と共に大光量が発された。
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