59話 第七遺跡へ
アーリトーレ曰く、第七遺跡が周囲の地形を激変させながら水没するまで、あまり猶予は残されていないとか。
彼女は元々遺跡の最奥に祀られていた【聖剣】であるから、微弱ながら遺跡とはまだ繋がりがあり、意識を向ければその様子が何となく分かるらしい。
俺たちはすぐに第七遺跡へ向かうべく港へ移動しながら、アーリトーレに尋ねた。
「……そういえば、前々から気になっていたんだけど。そもそも遺跡って何なんだ? 今じゃアーティファクトやミスリルみたいなお宝の眠る、魔物の巣窟って感じだけど」
「元々遺跡とは、人の世を守るべく【聖剣】に姿を変えた精霊を祀って、その力を最大まで引き出すための場所ですわ。【聖剣】の種類と建てられた遺跡の場所によって効果は様々ですが、ともかくかつては人々を守るための施設でしたの。それに魔物の方は、遺跡の防御機能の一環とでも思っていただければと」
それからアーリトーレは「ちなみに」とはにかんで続けた。
「わたくしも人の世を守護すると定められし【聖剣】にして元水系精霊。だからこそ眠りながらも長年、この港町を水害から守ってきましたの」
「水害から……ああ、なるほど」
ふと、前にシルリアから聞いた話を思い出した。
この街に堤防がない理由、それはアーリトーレが力を使ってこの地を水害から守ってきたからだったのだ。
「【精霊剣】は武器としての能力を極限まで引き出したって感じだけど、【聖剣】の方は自然の力もその身に取り込んでいるって雰囲気だな」
思ったことを呟いてみると、プラムが首肯してくれた。
「その通りだぞ、マスター。妾たちが人間の持つ『武器の概念』から生まれし精霊であるように、アーリトーレたちは人間の持つ『自然の概念』から生まれし精霊と言えよう」
「ああ、それで特性に違いがあったのか……」
今思えば、サフィアのラプテリウスは『万物にかかる重力』でグシオルのダーバディッシュは『熱と閃光』といったような、自然現象がモチーフだったのかもしれない。
それでアーリトーレは『水』にまつわる力を持つから、港町を長年、水害から守り抜くことができたのだ。
「ラルド兄さん、あたしたちのギルドの船が見えてきた! ちょっと待ってて!」
ミアはそれから、【風精の翼】の船に駆け込んでいった。
手筈通りなら、ミアが【転移】スキル持ちの仲間に事情を説明し、俺たちを第七遺跡まで飛ばしてもらう……予定だったのだが。
「ラルド。遺跡攻略へ向かうのに、わたしだけ仲間はずれというのはつれないぞ?」
「サフィアまで……!」
ミアは以前、俺たちをログレイア回収へと送り出してくれた【転移】スキル持ちの冒険者と共に、サフィアを連れてきた。
サフィアは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「わたしたちは持ちつ持たれつ、そう言ったのはあなただ。先ほども消耗したギルド用の武器を届けてくれたのだから、今度はわたしが助ける番だ」
第七遺跡から撤退してきて、サフィアも相当消耗しているだろうに。
それでも疲れた様子も見せずに申し出てくれた彼女には、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ありがとうサフィア。S級冒険者が一緒だと心強いよ」
それからミアとサフィアは、ギルドの備品らしきポーションなども回収し、ポーチに詰めていた。
一部俺にも渡してきたので「問題ないのか?」と聞いてみたが、「遺跡攻略に使われるなら少しくらい問題ない」とのことだった。
……それでも無事に戻ったら、ポーション代くらいは払っておこう。
一応ギルドの備品だし、部外者が使いっぱなしにするのもよくないだろう。
「では、飛ばしてくれ」
「いきますっ!」
準備が終わると、サフィアの言葉に合わせて冒険者の【転移】スキルが起動していく。
ここから第七遺跡までの距離なら、転移可能なのは一度に五人らしいので、精霊たちには一旦武器の姿になってもらう。
それから俺たちは眩い光に包まれたと思いきや、一瞬で第七遺跡へと飛ばされていた。
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