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58話 第七遺跡の事情

「で、ラルド兄さんはその子を助けるために【精霊剣】にしちゃったと」


「そんなところかな、他に方法もなさそうだったから」


「ふーん……まあ、アーリトーレも消えちゃうよりはよかったかもだけど」


「うぅむ、そんなにも切迫した事情があったのなら仕方なしか……」


 事情を聞いたミアやプラムは、どうにか納得してくれたらしかった。


「ちなみにアーリトーレは、これから俺たちと一緒に来ることに異論はないのかい?」


 マロンたちは最初から問題ないと言ってくれていたが、元【聖剣】ならまた感性が違ったりするかもしれない。

 そう思いつつ問いかけると、アーリトーレは答えた。


「ええ。この身はラルドさま……いえ、主さまに作り直していただいた【精霊剣】。命を救っていただいた恩をお返しすべく、誠心誠意お仕えさせていただきますわ」


 アーリトーレは自分の胸に手を当ててそう言った。

 ふむ、それなら問題はないとしてだ。


「なら早速、アーリトーレに質問があるんだけど」


「はい、何なりと」


 俺はミアと顔を見合わせ、共に頷いた。

 それからアーリトーレに第七遺跡の件を打ち明けた。

 最近魔物が活発化している上に、以前、【聖剣】らしき剣が遺跡内部から持ち出されたとのことを。

 しかしそれは当然アーリトーレではなく、ならば世で【聖剣】アーリトーレと呼ばれている剣の正体は何なのか。

 ……その辺りの話を聞いていたアーリトーレは、はっきりと告げた。


「恐らく現代で回収され【聖剣】アーリトーレと呼ばれているのは、遺跡から離れてしまったわたくしの代わりとなった剣……昔の言い方をすれば【準聖剣】ですわ」


「【準聖剣】?」


 【聖剣】ならまだしも、聞き慣れない単語だ。

 ちなみにミアも同じようで、不思議そうにしていた。


「主さまも、遺跡には数多くの武装……現代にてアーティファクトと呼ばれるものが保管されているのはご存知かと思いますが。【準聖剣】とは文字通り、【聖剣】に準ずる力を持ったアーティファクトですわ。確かわたくしの元いた祭祀場……第七遺跡にも一本あったはずですので、恐らくはそれかと」


「一本……でも、どうしてそんなものがアーリトーレの代わりに遺跡最奥に?」


 首を傾げたミアに、アーリトーレは言った。


「きっと遺跡独自の防御機能ですわね。魔力の源であり遺跡の核でもある【聖剣】アーリトーレを、わたくしを遥か昔に失った第七遺跡が、別の核を求めて遺跡内部の【準聖剣】を最奥に配置したのでしょう。……けれど」


 アーリトーレは言葉を切って、少し考え出すように告げた。


「【準聖剣】をも冒険者に奪われたはずの遺跡は、しかし何らかの理由で機能を停止していなかった。それどころか遺跡を守るべく、長い年月をかけて内部の魔物を増やし続けていたと。そういう顛末なのでしょう」


「でも、どうして今になって魔物が外に出てきたんだ? ここ数十年、何も変化なしって聞いたけど」


 呟くと「きっと、第七遺跡が水没しかけているからですわ」とアーリトーレが答えてくれた。


「最近は水の精、正確には水に住まう微小な精霊たちが、数百年に一度の恋の時期を迎えております。婚姻の相手を見つけるべく踊り狂う水の精に触発され、わたくしの祀られていた祭祀場……第七遺跡もまた水の中へ戻りたがっているのだと思います。そうなれば内部にいる陸生の魔物は溺れ死ぬ運命。それを悟って外へ出ようとしている魔物がいようとも、おかしな話ではありませんわ」


「……ええと、ちょっと待った」


 確かにシルリアはここずっと、水の精が活発化していると話していた。

 しかしそれ以前に、第七遺跡そのものが水の中へ戻りたがっているとは、つまり……。


「もしや第七遺跡って、元々水中にあったのか?」


「左様ですわ。遺跡の核であったわたくしもまた、元々は水を司る大精霊でしたから。けれど……大規模な地揺れ、水竜の怒り、付近における複数の【聖剣】の行使。これらによって一千年ほど昔、わたくしの遺跡は丸ごと、地上へと押し上げられてしまったのです。その際のいざこざで、わたくしも遺跡の最奥部から持ち出され、最後は海底に放り出され……」


 そう話すアーリトーレの表情は、どこか遠くを見つめているかのような、はたまた半ば現実逃避をしているかのようだった。

 現に話した後、虚ろな瞳で「うふふふふ……」とか言いつつ半笑いになっている。

 ……昔の話は、聞かぬが花らしい。

 それでも第七遺跡は湾を挟んでこの港町の向かい側方向にあるので、アーリトーレがこの近くに沈むこととなったのは、何となく納得できる気がした。


「しかし、大体の話は見えてきたぞ。水中へ没する第七遺跡から脱出しようと、第七遺跡内部で増えた魔物が慌てている。だから遺跡の入り口にまで強大な魔物が現れつつあると」


 話をまとめたプラムに、アーリトーレはこくりと頷いた。


「その解釈で間違いないかと。このまま第七遺跡の水没を放置すれば、その直前に内部から魔物が溢れて大惨事を引き起こします……ですので」


 アーリトーレは椅子から立ち上がり、小さな拳を握った。


「わたくしが直々に乗り込んで、遺跡の機能を停止させます。あの遺跡の核であったわたくしには、遺跡の制御能力も備わっていますから。そうすればひとまず、第七遺跡は水中に戻らず、魔物たちも遺跡内部で静かに暮らすことでしょう」


「なるほど……。そういうことなら」


 俺も立ち上がって、アーリトーレに向かい合う。


「手伝うよ。アーリトーレも魔物の巣に一人で行きたくないだろうし」


「主さま……! そう言っていただけると嬉しいですわ!」


 アーリトーレはそう言い、俺の手をぎゅっと包み込んだ。

 こちらとしても乗りかかった船だし、遺跡から魔物が溢れてこの港町まで来れば、最早観光どころではない。

 ミアや冒険者の友人たちに要らぬ被害が出ても困るし、俺としても第七遺跡はどうにかしたいと考えていた。


「それではご主人さまが向かわれるなら、わたしもお供いたします!」


 振り向けば、マロンたちも一緒に付いてきてくれるとその瞳で応えてくれていた。

 それから俺たちは、準備が整い次第、すぐに第七遺跡へ向かおうという話になった。


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