56話 インディゴスピアー
俺は今、炉で高速生成したインディゴスピアーという槍を、再び炉の中に突っ込んでいた。
インディゴスピアーとは、素材の魔石により穂先が青く輝く短槍である。
ブロンズソードやブラッククロスボウに比べれば多少人気は劣るが、取り回しがよい長さから、店での売れ行きも悪くない商品だ。
「……で、スピアーの横に【聖剣】を置いてと……」
考えているのは、炉の中にインディゴスピアーと【聖剣】を置き、アーリトーレが宿る武器を【聖剣】からインディゴスピアーに宿り換えることができないかと、そういうことだ。
武器の種類もまるで違うので適合可能かは未知数だが、他にアーリトーレを救う方法もないので、やる価値はあるだろう。
「それに【精霊剣職人】スキルはまだ未知数なところがあるし、やってみれば案外できるかもしれないしな……」
最悪、スピアーに乗り換えが利かなくても、アーリトーレ自身が炉の中で【聖剣】に宿りっぱなしになることで高熱により焼ける心配はなくなると、そんな考えもあった。
「できれば剣、ブロンズソードで試したかったけど……」
そちらはマロンが宿っているので「同じ武器種の【精霊剣】は重複できない」というルールにより不可能だ。
そのルールを破ればマロンに何が起こるかも不明なので、試すことはできない。
また、俺が高速生成可能な剣はブロンズソード以外にないし、ブラッククロスボウやスカーレットモーニングスターにもチョコとプラムが宿っているので、ひとまずこのスピアーで試すしかない。
これらの考えを伝えると、アーリトーレは即座に「分かりましたわ!」と元気よく返事をしてくれた。
「このままでは消え去る身。たとえ【聖剣】でなくなっても、現代にて【精霊剣】に転生できるなら本望ですわっ!」
そう言いつつ、アーリトーレは炉へと向かっていく。
そのまま姿を消して【聖剣】に宿るのかと思いきや……。
「せーのっ!」
……こともあろうに、アーリトーレは開いた炉の中にぴょいっと入り込んでしまった。
姿を消して【聖剣】に意識を移すのでもなく、精霊の姿そのままで。
「えっ、おいおい!?」
思わず前のめりになってアーリトーレを引っ張り出そうとしたが、炉はガチャン! と金属音を立てて閉じてしまった。
横にいるチョコも、口を半開きにしてぽかんとしていた。
「……すごい勢い……」
「あの子、あっという間だったな……」
「でも、アーリトーレも精霊だから。多分大丈夫」
チョコはそう言いつつ、炉を眺めながらちょこんと椅子に腰掛けていた。
何にせよ、もう炉に入ってしまったものは仕方がない。
また変化があれば中から自然に出てくるだろうし、また少しの間、待ってみるのもひとつだろう。
BKブックスより10/5発売の本作ですが、竹花ノート先生の素敵なイラストもあり、早くもhontoランキングに載っていました!
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