54話 【聖剣】の修理
海水に濡れたチョコが、宿の小さな浴場で(武器状態の際に錆びないよう)丁寧に体を洗った後。
【聖剣】を抱えて宿の部屋に戻ると、今まで姿を消していたアーリトーレが突然現れた。
「大きなお部屋ですね、ここには友人の方々と旅行に来られたのですか?」
「友人というか、一緒に住んでいる皆と一緒に。……というかやっぱり、【聖剣】の精霊って武器とは別に精霊の姿になれるんだな」
俺は精霊アーリトーレを見た後、【聖剣】アーリトーレに視線を移した。
【精霊剣】は当然、精霊の姿と武器の姿、どちらか一方にしかなれない。
けれど【聖剣】は武器の姿を維持しつつ、それとは別に精霊の姿になれるらしい。
……海で会った時からそう思っていたのだが、アーリトーレは首を横に振った。
「残念ながら、そうではありませんわ。通常ならわたくしも、【聖剣】の姿か精霊の姿、どちらか一方しか選べませんでした」
「でも、現に精霊と【聖剣】で分かれているじゃないか」
「違う。きっと【聖剣】から、アーリトーレの『意識』が剥がれかかっている。経年劣化も、きっとある」
チョコは古びてところどころに凹みも見られる【聖剣】に触れ、そう言った。
恐らくは、人間で言うところの幽体離脱……みたいなものなんだろうか。
そんなこちらの考えを裏付けるかのように、アーリトーレは首肯した。
「ええ、恐らくはその通りかと。そしてそのうち『意識』が完全に本体の【聖剣】から離れれば……」
「他の【聖剣】みたく、会話もできないただの剣になってしまうと」
アーリトーレは若干青ざめた表情で、こくりと頷いた。
意識がなくなれば、ある意味それは精霊としての死を意味する。
このままではアーリトーレは遅かれ早かれ精霊としては『消滅』してしまうだろうと、【精霊剣職人】スキルを持っているからか、なんとなく分かった。
「でも、大丈夫だ。打つ手はある」
俺は【精霊剣】職人スキルを起動し、炉を召喚した。
するとアーリトーレは目を丸くして、遠慮がちな手つきで炉に触れた。
「おお、これがラルドさまの炉……。やはり【精霊剣職人】も【聖剣職人】も、特殊な炉を扱うのですね」
「んっ、そうなのか……まあいいや。ひとまずアーリトーレには、この中に入ってもらおうかなって思っているんだ」
するとアーリトーレが首を傾げたので、チョコが説明を始めた。
「ラルドがスキルで扱える能力の一つ。【精霊剣】や武器の生成以外に、アーティファクトを炉に入れると修理できる」
「だからこの炉でアーリトーレを治せないか、試してみるって寸法だ」
いつ消滅するか分からない状態では、おちおち第七遺跡についての話も聞けない。
それにアーリトーレ自身も海底で錆び朽ちたくはないから、わざわざ俺に助けを求めたのだろう。
だったらここはひとつ、ちゃんと助けてやって、それから話を聞くべきだ。
「ラルドさま……。お力を貸していただけること、なんとお礼を言ったらよいか……」
「その辺の話は後でいいから。ひとまずは【聖剣】に戻ってみて」
アーリトーレは姿を消し、【聖剣】の中に意識を戻したらしかった。
それから【聖剣】がかちゃりと音を立てた。
「では、お願いします」
「分かった」
俺はアーリトーレの錆びた鞘と劣化が激しい柄を持ち、炉の中へ入れてみた。
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