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53話 精霊アーリトーレ

「要件を単刀直入に申し上げますわ。わたくしを、海底から引き上げてくださいませんか?」


「……海底から?」


 現に精霊アーリトーレは目の前にいるのに、引き上げてほしいとは如何に。

 頭を悩ませていると、アーリトーレの足元……正確には水面を見つめていたチョコが頷いた。


「魔力を感じる。アーリトーレの本体は、その下のあたり」


 本体……ということは、目の前の精霊アーリトーレは【聖剣】本体が姿を変えたものではない、ということだろうか。

 【精霊剣】と【聖剣】は、その辺りも違うのか。


「その通りですわ。訳あってわたくし、海底にて長く眠っていたのですが、先日あなたさまを……こうしてわたくしを視認できる【聖剣職人】さまがこの地に現れたのを感じまして。助けを求めようと、こうして現れた次第なのですが……」


 アーリトーレはチョコをじーっと見つめて、一言。


「ふむ、見た目はちんちくりんながら、よい質の【聖剣】を従えておりますわね」


「……」


 ちんちくりん呼ばわりされたチョコは、無言で頬を膨らませていた。


「それとチョコ、【聖剣】じゃない。【精霊剣】だもん」


「【精霊剣】とは……?」


「まあ、精霊が宿った武器って昔は【聖剣】って呼ばれていたらしいけど、現代では【精霊剣】って呼ばれているんだよ。時代の流れで呼び方も変わった……と言ったらいいのか」


 するとアーリトーレは納得した様子で「なるほど」と一言。


「して、【聖剣職人】さま……いえ、現代ではこの呼び方も間違いでしょうか。【精霊剣職人】さまとお呼びしても?」


「スキルの名前はそっちだから、それで構わないよ。もしくはラルドって呼んでくれ」


「ではラルドさま。わたくしを海底から引き上げてくださいますか?」


「そりゃ構わないけど……」


 困っているなら助けたいし、と言おうとしたところ。

 チョコがこちらの声を遮るように声を上げた。


「待って。……どうして海底にいるのか、理由を聞いてない」


 チョコはやけに警戒しているようだったが、【聖剣】の精霊と喋るのがこれで初めてだからだろうか。


「幼いように見えて、主人を守るという武器の要は押さえているようですね。……いいでしょう、お話して差し上げます」


 それからアーリトーレは、ため息交じりに言った。


「……端的に言えば、流されてしまったのです」


「ええと、それはどこから?」


「わたくしが祀られていた祭祀場、現代で言う遺跡から。眠っていたので正確な時間は分かりかねますが、つい数百年前……いえ、千年ほど前の話になるでしょうか」


 アーリトーレは困り切ったような、もしくは疲れ切ったような表情を浮かべていた。


「うぅむ……」


 千年という時間的スケールにも驚かされたが……しかしこれは奇妙な話だ。

 第七遺跡は五十年前に初めて【聖剣】が回収された場所とされているが、アーリトーレ自身の話によれば、とうの昔に第七遺跡から【聖剣】はなくなっていることになる。


 ──まさか、【聖剣】を回収したって情報は嘘なのか……? それとも回収したのは別の剣とか? いやいや、そんなまさか……。


 もしくはこのアーリトーレと名乗る精霊が、実は別の剣の精霊である可能性も考えられる。

 そうやって頭を悩ませていると、アーリトーレがおずおずとした様子になっていた。


「その……ラルドさま? わたくしのことを、助けてくださいますか?」


 若干警戒していたものの、上目遣いでこちらを見上げるアーリトーレからは、邪なものは特に感じられなかった。


「……よし、分かった。ひとまずは、どうにか君の本体を海底から引きあげるよ」


「本当でございますか……!」


 アーリトーレは目を輝かせた。

 まだまだ聞きたいことはあるけれど、それは彼女の本体である【聖剣】を海底から引き上げた後でいいだろう。

 それに第七遺跡はミアやサフィアが攻略に手こずっている遺跡だ、アーリトーレ自身から何か攻略の糸口を聞き出せる可能性もある。

 そうとなれば、早速水中に潜ってアーリトーレを回収してくるべきだろう。


 ──しかし潜る前に改めて正確な位置を知りたいし、チョコにもう一度聞いてみるか……んっ?


「あれ、そう言えばチョコはどこに行ったんだ」


 さっきから静かだと思っていたら、姿が見当たらない。

 首を回していると、ふと、水面にぽちゃんと何かが浮いた。

 見るとそこには、浮上してきたチョコの姿があった。


「チョコ、いきなりいなくなるからびっくりしたぞ……」


「ラルド、取ってきた」


 よく見れば、泳いでこちらに戻ってくるチョコは、鞘に錆びや傷の付いている小ぶりな剣を抱えていた。

 経年劣化なのかボロボロだが、あれが【聖剣】アーリトーレで、話を聞いていたチョコがいつの間にやら自発的に回収してきてくれたらしかった。


「おお、【精霊剣】とやらは話が早いのですね」


「いや、チョコが大分フリーダム過ぎるだけだと思うぞ……?」


 それからチョコはペタペタと歩いてきて、こともなげに「はい」と【聖剣】を手渡してきた。

 ……なんと言うか、ログレイアを回収した時もこんな感じだった気がした。


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