50話 ミアの武装
寝ぼけながらもこちらの背にしがみつく顔の赤いミアを、精霊たちの協力もあって宿のベッドに寝かせた後。
俺は持ち込んでいた武器素材を床に広げていた。
「シルリア。この辺の素材、全部まとめて倍くらいに複製できるかい?」
「多分、できるんじゃないかなって思います。魔力の方も今日は消費していませんから」
シルリアはそう言って、能力を行使した。
淡い燐光が魔力と共に散って、次々に素材が増えていく。
無機物であるはずの武器素材が、見ようによっては何らかの生命を持つかのように猛烈な勢いで増殖している。
持ち込んだ少ない素材もこうして増やして使えるので、シルリアの能力はこんな時にはとても助かる。
「ところでご主人さま。ブロンズソードに使う魔力鋼など以外の素材もあるようですが、どうするおつもりですか……?」
「それはもちろん、後でミアやサフィアのギルドに色んな武器を作って渡すためだよ。もうサフィアの方にも話は通してあるから」
小首を傾げたマロンに、そう答える。
例の遺跡攻略でミアも武装を大量に消費したらしいが、それは他の冒険者も同様だったとサフィアが言っていた。
そこで俺が出張武器屋として武器を売ろうかと提案したら、サフィアは「それは助かる!」と即座に快諾してくれたのだ。
魔物相手に通常の武装では分が悪い冒険者も少なくないだろうが、サフィアの反応からして、それだけアーティファクトの消費も激しいといったところだろう。
「ともあれ今は、ミアのブロンズソードの方を作らないとな」
スキルを起動し、いつものようにスキルで炉を召喚して素材を放り込む。
シルリアの力で素材さえ増やすことができれば、スキルで高速生成できる武器ならどんな場所でも作成できる。
俺のスキルとシルリアの能力の相性は中々いいのでは、と思う今日この頃だ。
ちなみに、ミアのブロンズソードは何度も作っているので、素材の分量などはウィンドウを見なくても把握できている。
それからすぐに、スキルによってブロンズソードが高速生成され、中から出てきた。
……ちょうどその時、ベッドの方でもぞもぞと動きがあった。
「あ、起きた」
チョコがそう言ったのと同時、ミアが目をこすりながらむくりと起き上がった。
「ううっ、頭痛いぃ……」
「酒の飲み過ぎと、疲れからじゃないのかそれは」
「あらっ、ラルド兄さんに皆……。……ここ、どこ?」
ミアが寝ぼけた表情できょろきょろと部屋を見回す。
「ここは妾たちが泊まる宿の部屋だ、もう少し寝ていた方が良いと思うぞ?」
プラムが心配そうに聞くが、ミアは首を横に振った。
「ううん、大丈夫。あたし、こう見えても冒険者だから……と言っても、体力が戻るまではしばらくは休むつもりだけどね。武器も無くなっちゃったし」
「いや、武器の方は心配しなくていいぞ。ほれ」
そう言いつつ、大きく肩を落としたミアにブロンズソードを掲げて見せる。
するとミアは、目を丸くした。
「ラルド兄さん、それ……わざわざ作ってくれたの!?」
「スキルがあれば、どこでも作れるからな。それに、会った時は『何で来たの!?』みたいな反応だったけど、ミアの武器も補充できるし来てよかっただろ?」
ふふん、と少し自信ありげに言ってみると、ミアは感極まったような表情でガバッと飛びついてきた。
「ラ、ラルド兄さん、本っ当にありがとうっ! あたし、知り合いからアーティファクトを借りてもスキルのせいで上手く使えないから、本当に助かりましたっ……! 神さま仏さまラルド兄さんっ!」
ぎゅううっと力を強めるミア。
甘い匂いがするが、しかし流石に冒険者に力一杯抱きしめられると、首が締まってしまう。
「わ、分かった分かった。だから一旦離れて、な?」
「……もうちょっと! もうちょっと抱き着かないと、あたしの感謝の心はきっと伝わんないから……!」
「……単にミアがそうしたいだけな気がするー……」
チョコがジト目でそう突っ込むと、ミアはテヘヘ、と小さく舌を出して笑っていた。
……未だに酒の匂いはするけど、ひとまずミアも元気になったようで何よりだった。
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