49話 ミアと酒場
ミアやサフィアと合流した当初、二人は目をまん丸にしていた。
様子からして「何で来ちゃったの!?」とか「来てしまったのか……」とか思っていたんだろう……多分。
けれどその後、冒険の疲れが溜まっているミアとサフィアを労おうと、近くの酒場へ連れて行ったところ……。
「もう、あんなの反則よーっ!!!」
酒をあおったミアが、ジョッキを卓に叩きつける音が酒場にこだました。
周りの客もがやがやとしていたし、どこの酒場もこんな調子なので、特にこちらを見る客はいなかったが……しかし卓を気遣う店主の視線が痛かった。
「ミ、ミア。ちょっと落ち着こう……な?」
船酔いの次に酒に酔うとは、この子は酔ってばかりである。
ミアはブンブンと首を横に振った。
「落ち着くって……無理よ無理無理〜っ! いくらラルド兄さんの頼みでもムリッ! 第七遺跡、理不尽すぎるわよぉ……っ!」
酔いが回って顔が赤いミアをなだめようとしたが、ミアは憂さ晴らしと言わんばかりにさらに酒を流し込んだ。
……その小さくて細い体のどこに、そんなに酒ばかり入っていくのか。
そしてミアは巨大なジョッキの中身を飲みきり、何杯目か分からない酒を注文してから。
「……ううっ……ラルド兄さんからもらったブロンズソードも全部壊しちゃうし。せっかくあんなに作ってもらったのに……もういやあぁ……ぐすっ……」
……さっきまで不機嫌だったのに、今度は泣き出した。
酒のせいで感情がスクランブルエッグ状態だが、一体第七遺跡で何があったのか。
さしもの精霊たちも、この状態のミアをどうなだめるべきか判断しかねている状態だった。
「……サフィア、何があったんだ?」
黙々と食事をしているサフィアに尋ねると、サフィアは言った。
「第七遺跡……想像以上の魔窟だった。入り口のケルベロスの一体目など、まだ生易しかった。遺跡中程に至る頃には、奴らが群れていた。加えてミノタウロスなど、その手の化け物も次々と……」
ケルベロスもミノタウロスも、大抵はA級やS級冒険者がパーティーを組んで一体づつ倒す相手と聞いている。
そんな魔物が大発生している第七遺跡の内部とは、一体どうなっているのか。
サフィアは疲労を滲ませた表情で続けた。
「わたしやミアを見て分かると思うが、ともかく第七遺跡攻略は困難を極めている。わたしを含めて、数度遺跡に突入したギルド連合のS級冒険者は五名前後。他にもA級やB級上位の手練れもいたが、戦力的な問題で遺跡の中程で何度も撤退となった。……そう、【聖剣】所持者が複数人いたにも関わらず、遺跡攻略には戦力不足だと判断せざるを得なかった」
そう呟いたサフィアは、やはり悔しそうでもあった。
……きっと、S級冒険者としての矜持もあったのだろう。
「……なるほど。数度の遺跡攻略挑戦で消耗したから、体制を立て直しにこの街へ戻ったと」
「その通りだ。そしてミアの場合……」
「何度も遺跡攻略に失敗して自信をなくした上、ブロンズソードも全て失ったと……」
ミアの腕は知っているつもりだが、そろそろA級に上がるのではと思えるほどの力量はある。
前に遺跡に出たミスリルのゴーレムも一体くらいなら、どうにか倒せるのではというレベルだろうか。
「そんなミアがブロンズソードを全部壊して帰ってくるんだから、第七遺跡ってのは確かにとんでもないんだな……」
「うぅ……っ」
酒をあびるように飲んで涙腺を緩ませまくった挙句、当のミアは現在、明らかに顔色を悪くしていた。
卓に突っ伏して呻いている……飲みすぎである。
俺はミアが起きないか揺すってみてから、サフィアに言った。
「事情は分かったよ。それでミアだけど、介抱も必要そうだし、一旦俺たちの泊まっている宿に連れて行ってもいいか? ブロンズソードも新しいのを渡しておきたいし」
「ああ、そうするといい。ミアも武器がなくなったと、帰りの船では嘆きっぱなしだったからな」
「……何となく想像できる」
ついでに船酔いでグロッキーでもあったと。
それは色んな意味で、ミアも心労が溜まって酒を飲みたくもなるか。
それから俺たちは会計を済ませ、ミアを連れて宿へと戻った。