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4話 ブロンズソードの底力

マロンが現れた翌日。


「おい、小店の店主! てめぇ、昨日はよくも俺に恥かかせやがったな……!」


「またあんたか……」


 今度こそため息をついて、俺は店にやってきたマイングを見つめた。

 マイングはこめかみに青筋を浮かべ、ずかずかとカウンターの方へとやって来る。


「てめぇのお陰で昨日の晩はミアに怒られるわ、ギルドマスターに減俸を言い渡されるわ、ギルドの連中に笑われるわ……散々だったぞオイ!」


「勝手に突っかかってきたのはそちらでしょう。それで今日は、俺にお礼参りですか?」


 聞くと、マイングはにやりと頬を上げた。


「おう、話が早くて助かる。やっぱ冒険者にもメンツってもんがあってな。そいつを潰されちゃあ、B級冒険者の俺と言えどもこの先やっていきにくい」


 ……なるほど。

 大方冒険者ギルドでは「外れスキルである【武器職人】にマイングが敗れた」と噂になっているのだろう。

 それでその噂を晴らすため、こうして出向いてきたと。


「だったら俺が今から冒険者ギルドに行って、皆さんに説明してきましょうか? 実際には、マイングさんが俺に負けた訳ではないって……「ええ、その通りです! このおじさんはわたしがやっつけたのですからっ!」


「……」


 思わず、頭を抱えたくなった。

 丸く収めようとしたら、俺とマイングの間にマロンが入り込んでとんでもないことを口走り出したからだ。

 マイングは圧力を増して、こめかみの青筋を増やした。


「おう……おうおうおう、そういうことか! てめぇら昨日はグルになって、俺を気絶させやがったのか! なんて卑怯な連中だ、この場で叩き斬ってやるッ!!!」


「ちょっ、待っ……!?」


 まさかこの人、店の中で暴れるつもりか!?

 マイングは背から大剣を引き抜き、構えた。

 

「俺のスキルは【大剣使い】、どんなに重い剣でも短剣みたくブン回せる! こいつでお前らまとめて、真っ二つにしてやるぞッ!!」


「おいおい、流石にそこまで……!?」


 頭に血が上ったマイングには、俺の制止など届かなかった。

 俺めがけて大剣を振り上げ、文字通り真っ二つにしようと振り下ろしてきた。


「……ご主人さま、わたしで受けてください!」


 とっさにマロンがブロンズソードに戻り、俺の手の中に入る。

 

「ええい、なるようになれっ!」

 

 俺は反射的に、叩き込まれた大剣をマロンで防いだ。

 しかしブロンズソードであるマロンの刀身は、マイングの大剣に比べてあまりに細い。

 このままでは折れてしまうのでは、と思ったが……。


「な、なにぃ!?」


 マイングの驚愕の声が店内にこだまする。

 マロンは難なく大剣を受け、俺も倒れることなく持ちこたえた。


 俺とマイングの体格差は数周りもあり、マイングは筋骨隆々の大男。

 どうしてこんなことが起こったのかと目を白黒とさせていると、ブロンズソードのままマロンが言った。


「ご主人さま、わたしは【精霊剣】ですよ? 見た目こそブロンズソードですが、その本質こそ……アーティファクトの【聖剣】にも劣らないと自負しています!」


 マロンが刀身から魔力を放った途端、マイングがその衝撃で大剣ごと後方に吹っ飛んだ。


「わたしの魔力をご主人さまに流し込んでいます。魔力で身体強化された今のご主人さまなら、勝てます!」


「……よし、あいつを追い出すぞ!」


「てめぇら……舐めやがってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 逆上したマイングが立ち上がり、大剣を構えて迫る。

 しかしこちらも受けに回るのではなく、前へと出た。


「マロン!」


「合わせます!」


 俺がマロンを振って大剣に接触した直後、マロンの刀身が爆発的な光を帯びた。

 その光からは文字通り、魔物をも消し飛ばしてしまいそうなほどの力を感じた。


「なっ、馬鹿な!? こんな魔力、本当にアーティファクトの【聖剣】並みじゃねーか……!?」


 驚愕を顔に貼り付けたマイングに、マロンは答えた。


「何を言いますか、アーティファクトの【聖剣】も元を正せば太古の【精霊剣】。すなわちこのわたしも、現代における聖剣と言えましょう! ……ご主人さまに斬りかかったその不敬、店の外で悔いなさい!」


 マロンの力と俺の一振りが合わさった一閃は、大剣を真っ二つにしてマイングを吹っ飛ばし、開けっ放しだった店の扉から外に叩き出した。

 マイングは折れた大剣を持ったまま倒れこみ、気絶してしまったようだった。

  

「うおぉ……凄いなマロン。今の現代における【聖剣】って話、本当か?」


「ええ、概ね事実です。アーティファクトの【聖剣】も、元々は精霊が剣に宿ったもの。同じ精霊の宿った剣なのですから、わたしも【聖剣】たちもほぼ同じものであると言えるでしょう。とは言え……太古に作られた【聖剣】たちは劣化もしていると思うので、わたしの方が強力かもしれません」


「マジか……!?」


 思わず、感嘆の声を上げてしまった。

 ここまでくるとブロンズソード、本当に侮りがたいな。

 それに今の俺の動きは、マロンの魔力強化のお陰でB級冒険者のマイングにも引けをとっていなかった。

 

「今なら冒険者にだって、もしかしたらなれるかも……?」


 そう思い至ったが、俺はすぐに「そりゃないな」と首を横に振った。


「ご主人さま?」


「いや、何でもないよ。……だって今の俺は【武器職人】で、俺の武器を待っているお客さんもそれなりにいる。何より、俺は【武器職人】として店でゆったり暮らしているのも性に合っているみたいだし」


 ここ数年の【武器職人】としての平穏な生活が悪くないと思えていたのも、事実だ。

 そうでなければ鍛錬とは言え、毎日ブロンズソードを作る生活は続けられない。


 それから俺は、マイングを撃退できたことにほっと安堵するのだった。

 ……なお、マイングは騒ぎを聞きつけてきた街の衛兵たちに連れて行かれ、その場はひとまず収まった。


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