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46話 馬車の中で

 港町の方へ行くにあたり、俺は馬車を使うことにした。

 知り合いの駅馬車の経営者に頼み、そこそこ大きな馬車を用意してもらってから、中にあれこれと荷物を積んでいく。

 それからはスムーズに街を出ることができた。


「ふむ、向こう側から引き返してくる者たちが多いな」


 ふと窓の外を眺めていたら、プラムがそんなことを言い出した。

 俺も同じことを思っていたところだった。


「やっぱりあれかな、ミアたちが行った例のダンジョン。あれが原因で、できるだけ遠ざかりたいって人が多いんじゃないかな」


 第七遺跡に何が起こっているのであれ、魔物が現れるなら遠ざかりたいと言うのが人の心だろう。

 とは言え、俺たちのこれから行く港町は地図上ではそこそこ第七遺跡から離れている。

 大事が起こったとしても、被害を被る前に逃げるには十分な距離がある。

 まあ、あまり神経質になる必要もないだろう。


「それよりも港町で何をするかだ。出張武器屋は様子を見ながら、やれるならするとして。マロンたちは何かしたいこととかあるか?」


「そうですね、やはりせっかく海に行くので近くの浜辺で泳いでみたいです」


「あっ、チョコも泳ぎたい。……錆びそうだけど……」


 チョコは普段通りのんびりな声音だったが、錆びそうと言った時だけ明らかに声のトーンが落ちていた。

 俺は少し笑いながら、チョコに言った。


「精霊の姿なら錆びないだろうし、問題ないさ。最悪錆びても、頑張って錆びを落とすから」


「マスターはそう言ってくれるが、しかし妾たちにとって錆びは死活問題だ」


 珍しく真面目な雰囲気のプラムは、大きな胸の下で腕を組みながら言った。


「何せ、武器が錆びたら捨てる冒険者も少なくない」


「そりゃ勿体ないな」


 作っている身としては忍びない。

 ただし、武器なんてアーティファクト以外、魔物を相手にして壊れたら使い捨てていくのが冒険者のセオリーと聞く。

 そんなノリで錆びて切れ味が悪くなったら速攻で捨てる冒険者もいそうなのは、容易に想像できるが……。


「う、ううっ。……錆びたら使い捨て、武器の『概念』だった頃からのトラウマです……」


 見れば、マロンがげんなりしていた。

 元々が使用者が多い安価なブロンズソードなだけあって、錆びて捨てられた回数も半端じゃないんだろう。


「ご、ご主人さま。わたしも錆びたらきっちり錆びを落としていただけますと幸いです……」


「きっちり落とすし、たとえ錆びたって捨てないから安心してくれ。俺だって相棒を捨てたりしない」


「あ、相棒ですか?」


 マロンはぽかんとした様子になっていた。


「ああ、一番最初に作った精霊剣だし。マイングの時から始まって有事の時は一緒に解決してきたから、俺はそう思ってるよ」


 改めて言うと少し恥ずかしさはあったが、正直にそう伝えると、マロンは輝くような笑みを浮かべた。


「は、はいっ! もちろんですとも。わたしはご主人さまの相棒……ふふっ、いい響きですね」


 マロンはさっきのさめざめとした雰囲気から一転、一気に上機嫌となった。

 それにそもそも、マロンは最初に「永遠不滅のパートナー」とか言っていたし。

 相棒という表現でも間違っていないだろう……と思っての発言だったが。


「「……」」


 チョコとプラムからの視線が妙に痛い。

 どうしてだろうか、明らかに不満ありげだった。

 むくれた顔のまま、チョコは呟いた。


「むぅ……チョコだって相棒、パートナー、伴侶」


「いや最後はエスカレートしすぎだっ」


 もしミアが聞いていたら何をするか分からない発言を、俺は即座に否定した。

 次にプラムは立ち上がって、東洋で言うところの仁王立ちになった。


「マスター! マロンが最も付き合いが古いのは納得だが、相棒の座は妾とて譲る気はないぞっ! ……こうなったら、マスターに妾の有用性を示すべくこのまま第七遺跡へ……!」


「ちょっ!? 待て待て、流石にそれはシャレにならないって」


 目を暗くして不穏なことを言ったプラムを、俺は即座になだめにかかった。

 それからチョコとプラムは馬車の中で長らく、俺の両脇を固めるようにひっついていた。

 ……マロンが近寄ろうとすると、謎の威嚇をする始末だった。


「ともかく! 今のマスターの発言は看過できぬ!」


「武器にとって、使い手の一番になるのは大切なこと。……チョコも頑張る」


 ますますむすっとした様子のチョコとプラム。

 当然二人のこともマロンと同じくらい大切だし、さっきの発言は特に重たい意味もなかったのだが。

 精霊たちにとっては重要な発言だったらしいので、これから先は気軽に「相棒」と口にするのは控えようと考える次第だった。


 なお、そんなチョコとプラムの様子を見ていたシルリアは「あ、あはは……ラルドさんモテモテ……」とこっちを見ながら延々と苦笑していた。

 いや笑いごとじゃないぞと、内心突っ込む俺であった。


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