43話 アーティファクトの修理依頼
「最近、アーティファクトの修理依頼が特に多いな……」
冒険者から預かり、いくつもの木箱に入れてあるアーティファクトを眺めていると、自然とそんな言葉が口を突いて出た。
「……仕方ない。最近、強い魔物が出る遺跡があるみたい」
「ん、そうなのか?」
その辺に座りながら菓子を齧っていたチョコは、こくりと頷いた。
ちなみにチョコも既にミスリル加工を終えているので、魔力さえあれば自由に外で歩き回ることができる。
大方、今の話も菓子と一緒にその辺の冒険者からもらってきたのだろう。
「この街だけじゃなく、色んなギルドの冒険者が駆り出されているって。国がお願いしているって聞いた」
「ふーん……国がお願い、な」
国が有名どころのギルドに魔物の討伐依頼を出したとは時たま聞くが、しかし各地のギルドに依頼を出しまくるとは何事なのか。
「ミアもサフィアも最近は来ないし、話を聞けないから事情は分からないけど、今が冒険者にとっての書き入れ時なのかな」
「……? そうなの?」
「国からの依頼は大抵、報酬がべらぼうに高いから。冒険者たちもこぞって依頼を遂行しようと頑張る傾向にあるんだ」
となれば、しばらくミアもサフィアも店に顔を出さないかもしれない。
そう思っていると、店のドアがガチャリと開いた。
店裏の作業場から出ると、買い出しに行っていたマロン達が戻っていた。
「ご主人さま、ただいま戻りました。お肉が安かったのでちょっと多めに買っちゃいました」
「おかえり、マロン」
マロンやプラムが上機嫌な辺りから、中々いい買い物ができたと見える。
先日ミスリル加工を頑張ったことで、精霊三人は今や普通の人と同じように活動できる。
三人とも各々、店が暇だったり休みだったりの時は外に出るようになったので、それなりに楽しめているんだろう。
「あれ、ちなみにシルリアは?」
「うむ、シルリアならしばらく戻ってこないぞ。もう少し外を歩きたいと言っていたし、また書店にでも寄っているのではと思う」
プラムは買ってきた食材を店から家の方に持ち込みながら「あ、それと」と付け足した。
「マスター、先ほどミアに会ったが伝言を預かった」
「ん、ミアに?」
「うむ。『ラルド兄さん、いつものあたし用ブロンズソードを十本! 大至急!!』……との話だった。何やらバタバタしている様子だったが……」
「十本も大至急で……?」
ミアは【抗魔力】スキルを持つ関係上、アーティファクトではなく現代の武器を使っている。
そこで俺のブロンズソードをよく愛用してくれている訳だが……。
「十本って尋常じゃないな、何と戦うんだ?」
古くから機能をほぼ劣化させることなく存在してきたアーティファクトに比べれば、流石に俺の武器──精霊剣以外──は、いくらか強度的な面では劣る部分もある。
逆に現代の武器がアーティファクトより優れていたなら、【武器職人】は不遇スキルでも不遇職でもないだろうし、もっと生計を立てやすい職となっていただろう。
それでも大体ミアが予備でブロンズソードを持って行くとしても、多くて三本程度だ。
それが十本とは、どんな化け物と事を構える気なのか。
「……きっと、ミアも国からの依頼」
チョコがそう呟いて、普段通りの眠たげな瞳で見上げてきた。
「大丈夫、ミアも強いから」
「うん、そこは心配してないよ。最近はずっとサフィアと一緒に活動しているようだし。きっと今回もそうだと思うから」
さて、ひとまずミアのブロンズソードをすぐにでも作らなければ。
寸法や重量などはスキルのウィンドウに記録してあるので、シルリアの能力で増えた材料の山から必要分を手にした後は、スキルで召喚する炉に素材を突っ込むだけ。
特に難航する作業でもないので、夕食前に済ませてしまおう。
俺はそんなことを考えつつ、再び作業場へ戻っていった。




