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閑話 第七番遺跡アーリトーレ

 青白い月明かりが、冷たい色合いの遺跡外殻を照らし出していた。

 付近の大樹の陰に潜みながら、サフィアはその遺跡へと視線を向ける。


「第七番遺跡アーリトーレ、まさかこんなところに足を運ぶ日が来るとは……」


 サフィアは顔をしかめて、ことの顛末を内心で反芻していた。


 アーリトーレとは、別段知る人ぞ知ると言った遺跡ではなく、寧ろ遺跡の中では有名な方だ。

 五十年以上前、アーティファクトの発掘権などを国に認められた「正規ギルド」と呼ばれる組織が各地で発足した時期、いわば社会に職を認められた「冒険者」たちの黎明期において。


 冒険者たちが初めて踏破した十の遺跡の中の一つ、それが第七番遺跡アーリトーレだ。


 そしてアーリトーレは初めて【聖剣】が回収された場所。

 現生人類が太古の超文明技術の結晶である【聖剣】と初めて邂逅した遺跡でもある。


 このように冒険者たちの歴史上、非常に重要な意味を持つアーリトーレだが……ほんの一週間前、異変が起きたと各地のギルドへ報告が入った。

 五十年以上も昔に最奥部まで踏破され、【聖剣】まで回収されたアーリトーレに魔物が出たと言うのだ。


 遺跡が自身を維持する手段は数種類かあるとされるが、特に【聖剣】を持つ遺跡は最奥部の【聖剣】から魔力を得て機能していると言われている。

 逆に最奥部で【聖剣】さえ回収すれば、それらの遺跡は速やかに機能停止へ向かうとされるのが世の定説だ。


「……だが、数十年前に【聖剣】を回収したはずのアーリトーレが機能を回復しつつある。その上……」


『GEEERRREERE……』


 サフィアはアーリトーレ内部から現れた魔物を見て、目を細めた。

 成人男性の五倍以上はある体高に、全身を覆う灰色の体毛。

 胴は通常の四足歩行型の魔物に似ているが、しかしそこから伸びる首は三つ。

 いずれも短刀のような牙が生え揃った狼似の頭であり、虚空を見つめる瞳は赤々とルビーめいた輝きを放っている。


「遺跡によっては最奥部で【聖剣】を守るために配置されているケルベロスが、よもや遺跡の入り口付近を徘徊しているとは……」


 報告の通りだなと、サフィアは顔をしかめた。

 また、あの報告が単なる与太話や見間違いであればどれほど良かったかと、思わずにはいられなかった。


 遺跡に現れる魔物の強さは、深部へ進めば進むほど強まる。

 おおよその場合、遺跡に踏み入ったあたりで現れるのはスライムなど弱々しい魔物ばかりだ。


 しかし今現在、アーリトーレの出入り口付近を守っているのは、ドラゴンやミスリルのゴーレムと同列のケルベロスだ。

 ……となれば、遺跡の中ほどや最奥部ではどれほどの魔物が湧いて出ているのか、見当もつかない。


「遺跡を進めば進むほど、魔物の強さは格段に向上していく。ケルベロス以上の魔物と連戦など、考えたくもないな」


 あまりに突飛な状況に苦笑すら浮かんでくる様だが、やはりアーリトーレは遺跡としての機能を取り戻して魔物が出現するようになっている。

 そして遺跡は魔物の巣であり、現れた魔物は周囲の街や人々を襲う。


 加えて既に攻略済みで安全とされてきたアーリトーレの付近には、多くの街が遺跡を遠巻きに囲うように存在している。

 しかもその中の一つはあの【温泉街】ガイアナだ。

 多種族の人々が多く出入りする、観光地以外に国有数の貴重な交易の場にもなっている街だ。


「……しかし、ガイアナを守っていた最有力冒険者ギルド【妖狐の灯】は先日の闇ギルドの残党のおかげで、S級冒険者や優秀な冒険者を多く失ってしまった。これではガイアナが魔物に踏み荒らされないかと国が焦るのも、致し方なしか……」


 ともかく、サフィアは所属するギルドに下された国からの依頼によってアーリトーレまで出向き、その状況を把握した。

 S級冒険者の声は単なる与太話ではなく、ギルドの内外を問わず真実として広く届く。


「ケルベロスが遺跡の入り口にいるなどと言う異常事態、俄かには信じがたいだろうが……これはこれで報告せねばなるまい」


 ──そののち、調べなければならない。


 第七遺跡アーリトーレ内部で、一体何が起こっているのか。

 【聖剣】を回収した遺跡はどこも自然に復活し、ああして凄まじいほどに攻略難易度を高める魔物を出現させるようになるのか。


 遺跡もまた【聖剣】と同じように、旧時代の超技術により生み出された産物ではある。

 だからこそ何が起こってもおかしくないが……。


「もし攻略済みの遺跡がどれも復活し、ケルベロスほどの魔物を入り口付近に配置する仕様に進化するなら……」


 逆に、遺跡など攻略しない方が安全かもしれない。

 弱い魔物ばかり出現する遺跡ならば放置し、【聖剣】もアーティファクトも回収しない方が世のためではないか。


 ……けれど、いや、とサフィアはそこで思考を切った。

 復活して進化した遺跡がどれほど危険なものかを考えたところで、今は何にもならない。


 今は撤退して報告する方が先決だと、サフィアは闇夜を駆け出した。

 ……けれどその最中、サフィアもまた自身が回収して愛用している【聖剣】ラプテリウスの柄を知らず知らずのうち、握りしめていた。


 果たして、第六一番遺跡ラプテリウスには異変は起こっていないだろうかと。

 そんなことを、自然と考えながら。


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