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42話 ミアとの話

「……酷い目にあった……」


「あらあら、ジグルさんとは相当盛り上がったようですね」


 朝方に店に戻ると、マロンが水を出してくれた。

 それを思い切りあおると、俺はカウンターに突っ伏した。


「盛り上がったどころじゃないって……。結局、仕事上がりの冒険者みたいに飲まされまくって、うぅ、二日酔いだ……」


 酒は美味かった。

 しかし頭が重い、しこたま重たい。

 今日が休業日でよかった、これはもう仕事どころじゃない。


「ご主人さま、今日はしっかりと休んでくださいね? そもそも常日頃から、頑張りすぎなんですから」


「ああ、分かったよ。ありがとうマロン……」


 俺はこの後、千鳥足で風呂場に向かった。

 するとマロンたちが俺の朝帰りを見越してか、魔石で湯を沸かしてくれていた。

 気遣いに感謝しながら、ひとまず湯で汗や埃を流した。


「ともかく一旦寝よう、考えるのはそれからだ……」


 こうして俺は風呂上がりに自室へ向かい、そのままベッドに倒れて気絶するように眠った。


 ……それから、どれくらい経っただろうか。

 窓から射す夕日が顔に当たって、目が覚めた。


 どうやら一日中がっつり眠ってしまっていたらしい。

 それと朝昼と食事を抜いていたからか、腹も空いていた。


 何か食べようかと起き上がると時、ふとベッドの横に誰か座っているのが分かった。

 そちらを向くと、微笑んでいるミアと目があった。


「おはよ、ラルド兄さん。結構幸せそうな寝顔だったよ?」


「ああ、ミア。おはよう」


 ……と、普段通りに話したところで何だかそわそわした。

 ジグルがあんな話題で一晩中騒いだからだろう。


 少し目を逸らすと、ミアが首を傾げた。


「どうしたの? 何かあったの?」


 顔を近づけて、ミアが寄ってきた。

 普段なら苦笑して流すところでも、何だか今日はそうもいかなかった。


「あ、いや別に。……昨日ジグルと会って。それで色々話をして……」


「ああ、ジグルさんと。……って、もしかして」


 ミアは赤面して「あー、えーっとその……」ともじもじし始めた。

 ……仕草が可愛い。


「その、あたしの話してた?」


「……がっつりミアの話で、根掘り葉掘り聞かれた。それにミアもこの前酔いまくって、色んな冒険者に話をしてたとも聞いたよ」


 この辺りを話しただけで、俺とジグルのやりとりを想像できたのか。

 ミアはさらに顔を赤くして、ぴゅん! と素早く体を反転させた。


「え、あ、その……ね? あの時のあたし、ちょっとはしゃぎたい気分だったから、つい。人に言いふらす話でもなかったんだけど、あの時はラルド兄さんのお話で持ちきりだったから。ちょっと自慢したくなったと言うか、何と言うか……」


 普段は元気なミアが、今回ばかりはしおらしくなっていた。

 ついでにチラチラこっちを窺ってくる。

 ……やっぱり仕草が可愛い。


「……怒ってる?」


「怒ってないさ、怒るような話でもないし。……とは言えさ、そろそろ諸々決めるべきか、とか思って」


「諸々?」


 ミアに聞かれて、俺はどう言ったらいいか、と少し悩んだ。

 正面切って言うのは、少し恥ずかしい自覚があったからだ。


「……一緒になるのは店が軌道に乗ってからって話だったけど、最近はもう軌道に乗ったと言えるんじゃないかと思う。依頼は増えていく一方だし、作る武器の評判もいい。ついでに俺のスキルが【精霊剣職人】になったからか、アーティファクトの修理もできるから仕事にはこの先も困らないとも思う」


「ラルド兄さん、それって……?」


 顔を赤くしたままのミアが、またそっと寄ってきた。

 俺は意を決して、口を開いた。


「だからミア、その……!」


 ──ドーン!


「「!!??」」


 突然、部屋のドアが開くのではなく倒れて、ミアと共に飛び上がるほど驚いてしまった。

 見れば、ドアを押し倒したのはマロンやシルリアたち、四人だった。


 それから、目を合わせて固まることしばらく。

 普段通り眠たげな瞳のチョコが、マロンを指して言った。


「言い出しっぺ」


「ちょっ、チョコ!? 賛同してくれたじゃありませんか!?」


「あー、妾も止めたのだぞ? マスターとミアの会話を、ドア越しに盗み聞くのは野暮ではないかとな」


「……実はわたしも、まずいよなこれとは思っていたんですよねー……」


 チョコに次いで、プラムとシルリアまで口々に言った。

 ……気持ちは分かるので、チョコたちを責めようとは思わないが。

 しかし……


「なるほど、言い出しっぺはマロンか」


「ご、ご主人さま!? ごめんなさいほんの出来心だったんですー!?」


 からかうように言うと、マロンは「ひえええ!?」と慌て出した。

 その様子が面白くて、ミアと一緒に少しだけ少し笑ってしまった。


「まあ、いいさ。……それでさ、ミア」


「なぁに?」


 先ほどまでの赤面がなくなり、普段通り明るい雰囲気のミアに、俺は言った。


「やっぱり、起き抜けに勢いでする話でもなかったかもしれない。だから……またそのうち、改めてちゃんとするよ」


「……! うん!」


 お互いの気持ちももう伝わっているので、改めて口にする必要もないのだろうけど。

 それでもまた機会を見て、お互いの気持ちを伝え合うのもいいだろう。


 そうしてこの後、俺たちはまた普段通りの賑やかな日常に戻っていった。

 けれど強いて言うなら……我が家にミアの私物が少しずつ、それでも確かに増え出したのだった。


 そこから近々待っていそうな明るい未来を、俺は思い浮かべていた。


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