41話 【精霊剣職人】と友人との談笑(?)
グシオル討伐から、大体一ヶ月と少し経った頃だろうか。
連日店に引きこもり、山のような依頼を捌き終えてようやくひと段落ついた、そんなある日。
俺は温泉街ガイアナからふらりとやってきた冒険者の友人、ジグルと共に酒場に来ていた……のだが。
「おいラルド。お前、可愛い精霊ちゃん三人やハーフの精霊ちゃんと同居してるって話だけどよォ。しかもミアちゃんって子ともじきに一緒になるって、本当か?」
「……ぶはっ!?」
藪から棒に言われたそれらの話で、危うくエールを吹き出しそうになった。
その上おかしな呼吸でむせ、危うく大惨事になる寸前だった。
「うっ、ごほっ……!? ちょっ、待て待て。その手の話はジグルにしたことなかった筈だぞ。誰から聞いたんだよ?」
「誰あろうミアちゃんに決まっているだろ」
「ミ、ミアから……?」
どういうことだと、俺は首を捻った。
と言うのも、ミアはこの街の【風精の翼】所属だし、ジグルはガイアナの【妖狐の灯】所属だ。
どっちのギルドもそこそこ離れた街だし、そんな突っ込んだ話をする機会があるものか。
「あー、どこでそんな話をしたかって、不思議そうな顔してるな? でもそんなに不思議か? 例のグシオルとか言う奴、【双頭のオロチ】を潰した【風精の翼】と【妖狐の灯】の冒険者を主に狙ってたのはお前も知ってるだろ?」
「そりゃ知ってるけど……」
「なら話は簡単だぜ。事件が片付いた後、両ギルドの冒険者が自然と集まって一度宴みたいになったことがあったんだ。その時だな、俺がミアちゃんから話を聞いたのは」
「へ、へぇ……」
聞きながら、エールを流し込む。
冒険者と言うのが、何かひと段落ついたら酒を飲みたがる生き物だと言うのは、俺も冒険者を相手にする職業柄よく知っている。
だからこそ、確かに両ギルド入り乱れての酒盛りも何かきっかけがあれば起こるのだろうと何となく思った。
「で、お前は一緒になるつもりはある訳? ミアちゃん酔った勢いで、周りの冒険者たちにめちゃくちゃ言いふらしてやがったが」
「……どんなふうに?」
「『あたし、約束通りにラルド兄さんと一緒になるんだー』とか『多分もうひと押しだし、がんばろー!』……とかなんとか。回ってない舌で、幸せそうにニコニコして言い回ってたぜ? ひゃー、正直妬けるよ」
「……」
話を聞くうちに、顔が熱くなってくる。
俺はその場で頭を抱えたくなった。
ミアはあまり悪酔いしない方だと思っていたんだが、一体全体、その時は何を思ってそんなに酔っ払ってしまったんだろうか……。
俺の反応を見てか、ジグルがシシシ、と笑っていた。
「そう、うなだれんなよ。仕方ないと思うぜ? 何せ自分を含めたギルドメンバーを命がけで救ったのが他ならぬお前で、しかもあの時は『武器職人なのによくやるなぁ』ってお前の話題で持ちきりだったし。大好きなお前が褒めちぎられていたのも、さぞや嬉しかったんだろうよ」
「それで話と一緒に酒も進みまくったと……?」
ついでに口も軽くなったと。
当然、ミアも常日頃からそんなことを口走っている訳ではないだろう。
「……また話がそれたけどよ。そんでお前、どうなの。俺としてはお前がどう思っているのか、めっちゃ気になるんだが。俺とお前の仲だろ? な、な?」
ジグルがじーっとこちらに視線を送ってくる。
俺は妙な言いにくさを感じつつも、素直に白状した。
「……正直、ミアはいい子だと思う。明るいし可愛いし、俺をよく好いてくれているとも思う。ついでに、このままだと本当にミアの言う通りになりそうな雰囲気もある」
よく考えればあの事件以降、ミアは休日中、ずっと俺の店や家にいたりする。
しかも家事をしたり料理なんかも振舞ってくれて、これがまた美味い。
ぶっちゃけ通い妻状態だとも思わなくもない。
横目でジグルの反応を伺うと、酔いが回って顔を赤くしたジグルが机に突っ伏していた。
「……はあぁぁー! お前、女運に関しては最近最強すぎねぇ? その運、ちょっとくらいこっちに寄越せよおォ……」
さめざめと泣いているように、見えなくもないジグル。
……少し前に彼女と別れて以来、どうもそのままらしいと察した。
「……って、いや待てよお前!? 精霊ちゃんたちについて、ミアちゃんは何とも言ってないのか? 不平不満は言われてないのか!?」
何故か攻勢に出たようにガバッと体を起こし、ぐいっとジグルが寄ってきた。
俺は反ってジグルを躱しながら、言った。
「それについては大丈夫って言われているよ。精霊たちの本質は、あくまで俺の武器だし。シルリアの方もミアには話してあって、住み込みのバイトさんみたいなもんだから。その辺は全部理解を得てあって……近い近い近い!?」
「近い? いや、お前の話を一言一句逃すまいとしてるだけだ。別にこのまま頭突きしようとか思ってないから、安心しろよ」
「本音、本音が口からまろび出てるぞ!?」
ジグルは嫉妬か何かで血走った目をしていて、しかも顔が近いから普通に怖い。
前々から女の子の話になると、ジグルは妙な反応をするとは思っていたが。
しかし今思えば、こう言うところがあるからこいつはモテないのではないだろうか。
他はそこそこ良いと思うのに。
……俺もモテる訳じゃないから、人のことは言えないが。
「とにもかくにも……こうなればあれだな、うん」
「……うん?」
聞き返すと、ジグルは立ち上がって「むんっ!」と飛びかかってきた。
「粛清だよ!!! お前、やーっぱ俺の敵だぜこの色男!!!」
「お、落ち着け!? 俺が敵や色男な訳ないだろ……うわわわわ!?」
ジグルも本気ではないんだろうが、酒と嫉妬は人をここまで変貌させるのか。
俺はこの後、明け方までジグルの馬鹿騒ぎに付き合わされることとなった。
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