40話 武器職人と精霊剣の無双譚
グシオルを倒してからしばらく。
その間には本当に色々なことがあって、色々なことを聞いた。
グシオルを討伐しに向かったサフィアたちは、その先でグシオルと手を組んでいた別の闇ギルドの連中に行く手を阻まれていたこと。
しかもその闇ギルドの連中も並々ならぬ手練れ揃いで、俺が地下でグシオルと戦っていた時、街の一角が更地になるほどの大激戦が繰り広げられていたとか。
さらに驚くことに、俺やグシオルが戦っていた旧遺跡の最深部はギルドの記録にもない未踏域だったようで。
その後に大至急、探索が行われたらしいこと。
それからグシオルに適合していた【聖剣】ダーバディッシュやログレイアは、ミアたちのギルドでしばらく厳重に再封印されることに……などなど。
ちなみに俺の方は倒したグシオルを捕縛した後、傷だらけだったのもあり、即座に診療所送りにされてしまった。
それでも毎日お見舞いに来てくれたミアやサフィアから、ギルドの方は後始末やら何やらで日々忙しいと話を聞けたのだった。
……そうして、二週間ほどしてから。
俺の傷も癒えてあれこれ片付き、再び店に戻ったところ。
「え、え、えっ……何だこれ!?」
開口一番、変な声を出してしまった。
店のカウンターの上には、依頼書が山積みにされていた。
チョコとシルリアが依頼書の山が崩れないよう必死に支えている辺り、尋常じゃない枚数だ。
「ちょっ、マロン!? これは一体……!?」
恐る恐る尋ねると、マロンは輝く笑顔で答えた。
「はい、全てご主人さま宛てのご依頼です! 流石はご主人さま、休業中は依頼書のみ承ると言っておられましたが、全てはこうなることを見越してのお話しだったのですね!」
「いや違うよ!? 俺は単に、休業後も仕事の予定がちょっと欲しいなって思ったと言うか……いやでも何でこんなに!?」
明らかに百枚二百枚では効かない数の依頼書の山に仰天していると、視界の端で優雅に茶を啜っていたプラムが言った。
「仕方がないぞ、マスター。何せマスターの活躍は、吟遊詩人たちによって既に各地に広められているそうだからな。そうなれば依頼も増えるのが道理、一躍時の人だな」
「チョコも凄いと思う〜」
「いやいや、だからってこうなるもんか……!?」
しがない個人経営の武器屋に、大量の依頼書の山。
仕事があるのは幸せだが、これではチョコやプラムにミスリル加工を施し終えるのはいつになるやら。
「……とか何とか思っていても仕方がないし、とっとと目だけでも通すか」
「ええ、それがよいかと。わたしたちもお手伝いします!」
マロンが依頼書をまとめ出したのを皮切りに、俺たちは作業を始めた。
いつものように、賑やかに。
──やっぱり武器職人としての穏やかな生活も、自分の肌に合っているかな。ああ言う冒険や激闘は、しばらくの間はまっぴらだ。
俺はこのスローライフとも言えるのんびりとした生活が、何だかんだで好きなのだ。
これからもこんな調子で、皆と賑やかに過ごせたらいい。
そんなことを思いながら、俺は作業の手を進めていった。
***
そうしてラルドが、普段通りの生活を営み始めた頃。
世間では街を渡る冒険者や吟遊詩人の口伝てに、とある噂話が広まっていた。
それは「しがない武器職人が精霊と共に、闇ギルドの精鋭を死闘の末に討ち果たした」と言う、世にも珍しいものだった。
人々は物珍しさから、その噂話を家で、酒場で、店で、果ては旅先で伝えていった。
そうして広く語り伝えられていくその噂話は、次第にある種の物語のような色を帯びていく。
物語は広まっていく最中で、共通の呼び名が自然と付けられていくものだ。
そんな尾ひれはひれが付きながらも各地に広まったラルドの物語は、いつしか人々にこう呼ばれるようになっていった。
──【武器職人と精霊剣の無双譚】と。
※ひと段落して最終回っぽくなりましたが、まだ続きます。




