3話 【精霊剣】とスキル進化
いきなり現れた少女から話を聞くことしばらく。
「えーっと、今までの話を総合するとだ。つまり君はブロンズソードの『意識』や『概念』が形になった精霊であり、ブロンズソードそのものだと」
「はい、正確にはブロンズソードという武器種そのものを表した精霊です。一本一本に宿っているものではなく、ブロンズソード全体の象徴だと思ってください。……ご理解いただけましたか?」
恐る恐ると言った様子で、自称ブロンズソードな精霊少女は聞いてきた。
……なるほど。
超現象すぎて、さっぱり理解が追いつかない。
「……でも、君がブロンズソードの精霊っていうのはひとまず信じるよ」
「信じていただけるのですか!」
「だってさっきマイングを気絶させたのは君って話だったからね」
「ええ、それも先ほどお話しした通りです。ご主人さまに仇なす愚か者には天誅を、そんなところですとも!」
少女はえっへんとそこそこある胸を張った。
おぉ……意外とアグレッシブだぞこのブロンズソード。
ちなみに聞くところによれば、俺のスキルが【武器職人】から【精霊剣職人】に進化する直前だったからこそ、この子もマイングを気絶させた時のような芸当が可能だったとか。
どういう原理かは精霊のみぞ知るって感じだけれども。
「それで肝心なのは、どうして俺のスキルが進化して君が現れたかって話なんだけど……」
「ええ、その説明も今からします」
精霊少女はこほんと咳払いを一つして、話し出した。
その内容を要約すると、
『頑丈だけど安価で稼ぎになりにくいブロンズソードをここまで心を込めて作り続けた【武器職人】は、自分が初めてだった。普通は何年もブロンズソードばかり作らないけれど、お陰でブロンズソード作成の経験値がカンスト。その影響でスキルのレベルが上がり、進化した』
という感じだった。
「確かに鍛錬がてら毎日ブロンズソードを作っていたけど、まさかそれでスキルが進化するとは……」
精霊少女の説明を聞いて、思わず唸った。
ブロンズソード、案外侮れないな。
「でもご主人さま、毎日わたし……ブロンズソードを作っていた成果か、最近ではスキルで生み出した炉に素材を放り込むだけで生成できるじゃないですか。そこについては、不思議に思っていなかったんですか?」
「いや、周りに【武器職人】もいなかったし、逆にスキルに慣れればそれが普通なんだと思ってたけど……」
何だ、もしかして違うんだろうか。
「……ご主人さま、普通の【武器職人】スキル持ちの人はちゃんと鍛治の要領でブロンズソードを生成します。ご主人さまだって、最初はそうだったでしょう?」
ジト目で見つめてきた少女に、俺は苦笑して返事をした。
「ああ、言われてみれば……なるほど。ウィンドウが増えていったのと同様に、ブロンズソードを炉で高速生成できるようになったのも実はレベルアップの成果だったのか」
「その通りです。そしてそれが、スキル進化にも繋がっていったのです」
「でも俺のスキルが【精霊剣職人】になると、他の武器にも精霊が宿るのか?」
聞くと、精霊少女は「う〜ん」と小さな顎に手を当てて考え出した。
「どうなんでしょうかね。わたしも精霊の一体なので、作り手側の事情には詳しくないのですが……武器種によるかと。多分、ご主人さまのお店に置かれているような武器なら【精霊剣】にできますよ?」
「【精霊剣】? それって文字通り、君みたいな精霊が宿っている武器って解釈で合っている?」
「はい、その通りです。わたしが【精霊剣】ブロンズソードであるように、ブラッククロスボウを作れば【精霊剣】ブラッククロスボウになる筈です」
剣以外の武器でも【精霊剣】って呼ぶのか。
ちょっとややこしさを感じるが、それはさておき。
「……俺の作る武器に意思や精霊が宿るってなると、売りづらいな……」
そう、目の前の精霊少女は意思を持っている。
なのでこの先作る武器に意思が宿るとなれば、ある意味奴隷売買のような気がするが……。
「大丈夫ですよ。そこはわたしたち精霊が宿る【精霊剣】をご主人さまの所有物にして、普通の武器と作り分ければいいのです」
「おぉ、一応作り分けはできるのか」
それを聞けて安心した。
ついでに喋る武器なんて、使う側も中々困ってしまうだろうし。
「……で、君のこれからの扱いなんだけど……」
「はい、できればお店をお手伝いしようかと。単なるブロンズソードの『意識』だった頃からご主人さまを見てきましたが、ご主人さまもお忙しそうだったので」
「そう言ってもらえると助かるよ」
やる気満々と言った様子の精霊少女に、俺は安心する思いだった。
このまま放り出すつもりもなかったけれど、出て行くと言われてもそのまま外に出していいものかと悩んでいたからだ。
それに手伝ってくれるのならこの子に店番を任せている間、俺は外で素材の購入や取引もできる。
【武器職人】といえど、店に引っ込んでいるだけって訳にもいかないのだ。
「それじゃあ、これからよろしく。えーと、君はブロンズソードの象徴って話だったけど……」
だからってそのまま「ブロンズソード」とは人前で呼べない。
名前が必要になるな、と悩んでいたら精霊少女は「あ、呼び名でしたら」と言った。
「ブロンズソードと呼びにくければ、わたしのことは……ありきたりですが、マロンとでもお呼びください。ちょうど髪の毛も、栗色ですから」
「ああ、分かった。それならマロン、これから頼むよ」
「はい。ご主人様に作られた剣であるこの身、すりつぶす勢いでお仕えしますとも!」
「すり潰れるのは困るなぁ……」
そう苦笑いしているうちに、今夜も次第にふけていった。
こうして俺の元に、【精霊剣】のマロンが現れたのだった。