36話 見えた活路
「いい加減、消えろッ!」
「くそっ、こんなの無茶苦茶だ……!?」
グシオルは【聖剣】ダーバディッシュを振るい、結界を乱射するようにいくつも展開してきた。
正方形の半透明な結界は、こちらの動きを読んで次々に現れては大穴の岩壁を消しとばしていく。
「すまんマスター。ここまで派手に結界を展開されては、起点も潰せない……!」
「あれだけの数は……うおぉ!?」
プラムと話をしていたら、目と鼻の先に結果が展開された。
垂直な壁を蹴って方向転換、直後に結界が効力を発揮。
「ジリ貧……!?」
サフィアと万が一の時は残党……グシオルを倒すと約束したが、あんな化け物をどう倒せばいい。
彼のスキルはまだ不明な上、こちらは冒険者を目指して鍛えていた程度の武器職人。
このままでは攻めにも回れない、せめて地上のギルドに出さないように引きつけるので手一杯……待て。
「……あいつ、どうしてわざわざギルドの中に……?」
今更ながら、違和感を覚えた。
そもそも一体、どうしてグシオルはわざわざ大胆不敵にギルドに入ってきた。
あれだけ自由自在に【聖剣】を扱うなら、ギルドの外から結界を張ればいいのに。
「それができなかった……? ……もしかして、そう言うことか?」
頭の中でピースが繋がり、閃きが駆け抜ける。
俺は間髪入れずにプラムに言った。
「プラム、下だ! 遺跡の下へ抜ける!!」
「し、下……!? 承知したぞ、マスター!」
一瞬戸惑いを見せたものの、プラムは鎖を伸ばし、俺を遺跡の下部へと導く。
また、俺を狙うグシオルは少しの間虚を突かれたように止まっていたが、その隙を逃しはしない。
「今だ今今……!」
クロスボウの照準をグシオル周囲の岩壁に合わせ、引き金を引く。
チョコの魔力で自動装填されるクロスボウの連射力に物を言わせ、計五発の魔力矢を叩き込んだ。
「くぅっ、コイツ!?」
爆ぜた魔力矢によって遺跡の構成材が崩れ、砂煙を盛大に上げながら大穴の岩壁が崩壊を始める。
足場を失ったグシオルは忌々しげに顔を歪めながら、距離が離れたこちらを追うように落下してきた。
「ちょこまかと鬱陶しい、幕引きだ!」
眉間に皺を寄せたグシオルは極大の結界を展開し、その範囲にこちらを捕捉しようとする……が。
「チッ……!」
「やっぱりそうか!」
こちらの手前で膨張が止まった結界を見て、俺は自分の考えが正しかったと悟った。
同時、チョコが尋ねてきた。
「ラルド、どういうこと?」
「あいつの結界、思っていた以上に展開できる範囲が狭い。きっとサフィアの【聖剣】ラプテリウスの半分くらいの範囲でしか結界を張れないんだ」
そう、だからこそグシオルはわざわざギルド内に入ってきた。
危険な敵地に、それもサフィアたちが去ったタイミングを見計らってまで。
全ては敵の本拠地を一網打尽にするためにだ。
「となれば、妾たちは距離を取り続けて……」
「チョコが狙えばいい?」
「そういうことだっ!」
俺はクロスボウを構え、再度グシオルへと放つ。
超魔力の矢は、射線上どころかその付近にあるものすら撥ねとばす。
落下中で反応が遅れたグシオルは直撃こそ避けたが、魔力矢の衝撃波を受けて岩壁に叩きつけられた。
「よし、これなら……!」
俺はプラムの助けもあって一旦静止し、グシオルを見上げる。
グシオルは余裕ありげな表情から一転、頭から一筋の血を流しながらこちらを射殺さんばかりに睨んでいた。
「たかだか武器職人だと思って手心を加えてやれば……。そんなに殺されたいなら本気で狩る!」
「ご生憎と、そうはいかない!」
俺はそのまま大穴を降り、遺跡の底へと向かっていく。
上から迫るグシオルの殺気が膨れ上がるのを感じながら、俺は再度クロスボウを真上に構えた。




