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34話 『穿光』のグシオル

 当然だが、聖剣が能力を解放する際に放つ結界を相手に差し向ける行為は、謂わば相手の喉元に剣を突きつけることに等しい。

 加えてチョコは今、青年を見て確かに【聖剣】と言った。


 つまるところ……


「あいつ……正気か!?」


 【聖剣】を扱った青年は今や、抜刀したギルドの冒険者たちに遠巻きにされている有様だった。

 どうやらチョコが結界を破ったようだが、逆にそうしなければどうなっていたことか。

 冒険者たちが殺気立つのも、無理はなかった。


「てめぇ、今何しようとしやがった!」


「……」


「おう、答えろや!!」


 声を荒らげる冒険者たち。

 しかし白髪の青年はどこ吹く風といった様子で、冒険者たちを見回すばかりだ。

 その隙に、俺はチョコとプラムを庇うように二人の前へ移動する。

 すると青年はこちらを見て、ふっと口元を緩めた。


「へえ、誰かと思えばこの前の店主さん。こんなところで会うなんて奇遇だね」


「そういうあなたは……誰なんだ? 冒険者じゃないのか?」


 声を低めて聞くと、白髪の青年は手元のナイフをくるりと回した。


「僕は冒険者じゃないよ。この前お店にお邪魔したのは、ちょっとした気まぐれでさ。でも冒険者以外が武器屋に立ち入っちゃいけないなんて、そんなつまらないことは言わないだろう?」


「そりゃそうだけども……」


 彼と話しているうちに、妙な違和感を覚えた。

 殺気立った冒険者たちに囲まれているのに、今話している内容も声音も、その辺で会って世間話をしているかのような……どこかずれた雰囲気があった。


「……やれやれ。君は物腰も柔らかかったし、あまり巻き込む気もなかったけど……運が悪かったとでも思ってくれ」


 青年はそう言って、ナイフを構えた。

 途端、彼のナイフから魔力光が漏れ、それが結界となって周囲に広がっていく。


「まず……!?」


 周囲の冒険者が青年を制止しようとするが、結界の領域形成があまりに早すぎた。

 一瞬でギルド全体が結界に包み込まれ、爆発的なまでの魔力が周囲に立ち込める。


「こういう雑な手は使いたくないんだけど、サフィアとか言う女たちが戻ってきても面倒だからね。拠点攻略も皆殺しも、早いに越したことはないでしょ?」


 青年は事も無げに言った。

 彼の瞳の奥、ドス黒い何かが見えた気がして背筋が凍る……が。


「させるか、チョコ!!」


「やる〜!」


 プラムとチョコの二人が駆けるように前に出て、武器形態となった。

 そのまま二人も暴発寸前まで魔力を高め……飛び出した勢いのまま、青年へと迫る。


「んっ……アーティファクト? いや、違う……!?」


 結界を展開していた青年も精霊二人が只者ではないと気づいたのか、目を見開いた。

 ……直後、閃光と共に大激音が轟いた。


「────!!!」


 視界も聴覚も使い物にならなくなるレベルの衝撃。

 一体何がと思うより先、体が自然と前に出ていた。


「チョコ、プラム!!」


 何が起こっているのか分からないが、それでも二人をそのままにしておけない。

 閃光を前に目を瞑ったまま、突進するように駆け……床が消えた。


「……へっ?」


 突発的に襲ってくる浮遊感、足場がない。

 薄く目を開けると……。


「マスター!」


「ラルドっ!」


 俺はいつの間にか手の中に収まっていた武器形態の精霊二人と共に、真下へ……大穴の中を落下していた。


「なっ、何が……!?」


 上を見れば、丸くくり抜かれて青空が見えているギルドの天井。

 ……そうか、あの爆発でギルドの天井と床が抜けたのか。


 加えてふと、前に聞いた噂話を思い出す。

 実はこの街の地下には機能を失って久しい遺跡が眠っており、その上にこの街の前身である都市が築かれたのだと。

 ……なるほど、この深い大穴は遺跡のなごりか。


「くくっ……アハハッ! いいね、こういう趣向も嫌いじゃないよ」


「何……!?」


 直下を見れば、共に落下中の白髪の青年の姿があった。

 青年は愉快そうに頬を緩め、落下も構わず大の字になっている。


「君の持っているその武器、アーティファクトじゃないね? どちらかと言えば【聖剣】に近い……いやはや、ただの武器職人じゃなかったって訳か」


 青年はコートの裾からアンカー付きのワイヤーを取り出し、大穴の壁へ突き立て、宙ぶらりんとなって静止した。


「マスター、任されよ!」


 俺もプラムのトゲ付きの鉄球部分を壁に打ち付け、強引に静止。

 ガツンと全身に衝撃が走ったが、垂直な壁に体を固定するように踏ん張った。


「あのギルド内にいたってことは、大方君は元冒険者ってところかな? それなら……この場できっちり潰しておかなきゃ。後でお礼参りを邪魔されてもウザいからね」


 ここまで言われて、おおよそ彼の正体が掴めてきた。

 ギルドを襲い、手早く冒険者を皆殺しにしようとしたその手腕……それは、即ち。


「まさか、あなたが闇ギルドの……!」


「ああ、僕はグシオル。【双頭のオロチ】、『穿光』のグシオルだ!!」


 白髪の青年こと、例の闇ギルド残党……グシオルは。

 大穴の垂直な壁を蹴り、蛇のような素早い動きでこちらへ迫ってきた。


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