33話 ふらりとした闖入者
「お〜、ここが冒険者ギルド……」
「ほほう、妾が思っていた以上に大きい……」
サフィアたちのギルドこと【風霊の翼】のレンガ造りの外観を見たチョコとプラムは、おぉ〜と声を上げていた。
この街にもいくつか冒険者ギルドはあるが、その中でも【風霊の翼】のギルドは中々大きい方だ。
中に酒場も併設されているので、面積的にはその影響もあるだろうが。
「二人とも、早いとこ中に入ろう。俺たちがギルドに着き次第、サフィアたちが出発って予定らしいから」
俺はチョコとプラムを伴って、冒険者ギルドの中へと入っていく。
ちなみにマロンはミスリルのおかげで単独行動ができる都合上、今回は店で留守番をしている。
「おお、ラルド。来てくれたか」
ギルドに入ると、真っ先にサフィアが迎えてくれた……それと。
「あ、ラルド兄さん! 朝早くからご苦労さまー!」
「ミア、やっぱりいたか」
サフィアの横にはミアもいて、その近くにはさらに冒険者が十人前後。
知っている顔もいるが、なるほどこのギルドの腕利きが集まっていると。
その辺りからもサフィアたちは今回、本気かつ全力で残党狩りに出るらしいことが窺えた。
「さて、わたしたちはこれから出るが、何かあったらギルドの受付嬢にでも言って欲しい。……それにあまりないとも思うが、万が一の時はよろしく頼む」
「ああ。万が一の時は……な」
今回次々に事件を起こしている例の残党、聞けば街中で冒険者を血祭りにあげるような手合いだとか。
……下手人は中々派手なやり手のようなので、ギルドを案ずるサフィアの気持ちも分かる。
それから少し話をした後、サフィアたちギルドの精鋭パーティーは残党討伐へと向かって行った。
……さて。
それでサフィアたちがギルドを留守にしている間、何もなければ俺は酒場のスペースに座って休んでいて欲しい、とは言われていたが。
「ミア。その……行かなくてよかったのか?」
サフィアたちが出て行ってからしばらくして、俺の正面に座って暇そうにしているミアにそう聞いてみる。
正直に言えば、【抗魔力】という盾向きスキルを持つミアは今回の討伐戦に参加するものだと思っていた。
……とは言え行かない方が安全なので、ある意味ほっとしてもいるが。
「うーんと、あたしはほら。ラルド兄さんの付添い人みたいな? だってほら、ラルド兄さん、ギルドに入るの初めてでしょ? 勝手も分かんないだろうし」
「ああ、そういうことか」
言われてみれば、このギルドに入るのは初めてだ。
それにミアと一緒なら他の冒険者も「ああ、知り合いか」くらいに思うだろうし、ありがたい気遣いだった。
「……それとさ、さっきから少し思ってたんだけど……」
ミアはちらりとギルド内にできている人だかりを見て、言った。
「ラルド兄さんのところの精霊たち、二人とも囲まれているけどいいの?」
「うーん……いいんじゃないか? 二人とも楽しそうだし」
と言うのも、チョコとプラムはギルドの一角で冒険者たちに囲まれていた。
それでチョコもプラムも一瞬で武器に変身する芸当を見せたりしていて、その度に周りの冒険者たちから「おぉ!」とどよめきが上がる。
ついでに二人もそんな反応を受けてまんざらではない様子で、どこか得意げだった。
「……まぁギルドの皆も、二人のあれは魔術か何かに思えているだろうし。特に問題ないか」
ミアは半ば呆れ笑い気味にそう言った。
「それに二人とも、普段店から出ないから。新鮮な経験でいいんじゃないか……んっ?」
ミアと一緒に見つめていた人だかりが、ギルドの入り口付近でできていたからか。
ギルドに入ってきた一人の青年と、目があった。
どこにでもいるような平凡そうな出で立ちの、白髪の青年。
「あの人、この前店に来た……」
やっぱり前に思ったように、最近街に引っ越してきた冒険者だったのか。
まさかミアやサフィアと同じギルドに入っているとは思わなかったが……と、感じていたところ。
「あれっ、加入希望の新入りさんかな? 見ない顔だけど」
「んっ?」
ミアの言葉に、妙な違和感を抱く。
何だ、彼はこのギルドの人間じゃないのか。
それなら何故……と感じた刹那。
すっと青年が短剣を引き抜き、人だかりを半透明な立方体で覆うように魔力光を放った。
そして俺はこれまで何度か似たようなものを見てきたからか、その魔力光の正体が何かすぐに分かった。
「あれ……結界か!?」
突如として結界に包まれた冒険者たちは、何事かとどよめき立つ。
尋常ならざる気配を感じて思わず俺も立ち上がるが……その途端。
パリンと軽い音がして、結界が崩れ去った。
魔力が砕かれ、ゆっくりと霧散していく。
「……」
白髪の青年は、破られた結界、その中心部に細くした目を向ける。
そして結界の中心部、すなわち人だかりの中央にいたチョコが、いつも通りの眠たげな瞳に青年を映して言った。
「今の……聖剣?」




