31話 ふらりとした珍客
ミアと遊んでから、チョコとプラムのためにミスリル加工を続けてしばらく。
マロンの時よりもある程度加工がスムーズに行くようになったけれど、作業はやはりと言うかでかなり難航していた……そんなある日のこと。
「……最近お客さん、少ないですね……」
マロンがため息交じりにこぼしたその言葉に、俺は小さく頷いた。
「そうだな……。最近、例の闇ギルドの残党も出るって噂だし。新米冒険者たちもあまり依頼に行かないって話だしな」
「……それだと、ラルドの武器も売れない」
横を見れば、チョコも困り顔だった。
「でも【聖剣】回収の報酬もあるし、これくらいへっちゃらさ。それに店が暇なら暇で、ミスリル加工に費やせる時間も増えるんだし。そう考えればそこまで悪いって訳でもない」
とは言え、お客さんが来ない以上は店を開いていても仕方がない。
今日はもう店を閉めてしまおうか……そう思っていたところ。
「失礼、この武器屋かな? ラルドって職人がやっている店は」
「ええ、俺が店主のラルドですが……」
見れば、同い年くらいに思える白髪の青年がするりと店に入ってきた。
青年は店の中を軽く見回し、ふむと鼻を鳴らした。
「案外普通の品揃えだね、ブロンズソードみたいな武器が基本か。遺跡から発掘されたアーティファクトの類はないのかい?」
「ええ、この店には基本、俺の作った武器しか置きませんから。後は知り合いの店から入荷したポーションの類が少しですかね」
説明すると、青年は腕を組んで「なるほど……」と呟いた。
「つまり君は、普通の武器職人って訳かな?」
「確かに職業的には、俺はどの街にもいる武器職人ですが……どうかしたんですか?」
不思議な言い回しをする人だなと思いつつ、青年に尋ねた。
すると青年は小首を傾げた。
「いや、君は【風精の翼】の腕利きの冒険者とも繋がりがあるって聞いていたからさ。案外アーティファクトの類を店で扱っていたり、はたまた豪腕の元冒険者かと思っていたんだけどね。……これは少し、アテが外れたらしい」
白髪の青年はそう言って、踵を返してゆっくりと店のドアへと向かう。
……それから、店から出る直前で。
「それじゃあ店主さん、また縁があったら会おう」
青年はこちらをちらりと見て、そんな意味深げな言葉を残した。
そして店から青年が出た後、マロンが一言。
「冷やかし……でしょうか?」
「いや、そんな雰囲気でもなかったけど……何だったんだろうな」
それにあの青年、この街では見かけない顔だったけれど。
しっかりとした体つきからして、もしかしたら新しく移り住んできた冒険者なのかなと、俺はひとまず彼の顔を頭の片隅で覚えておくことにした。
「でもまぁ、今日は多分あの人が最後のお客さんだと思うし。やっぱり店を閉めて、ミスリル加工に戻ろうか」
「ええ、それがよいかと。お食事の用意などはわたしがやっておきますから、ご主人さまはゆっくりと加工に専念してください」
「ああ、ありがとうな」
マロンの気遣いに感謝しつつ、俺は作業場に向かっていった。




