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30話 噂とお茶会

「あ、ここのお茶美味しい。このカフェ、案外当たりだったかもね〜!」


 街を回って遊んでいた途中、休憩がてら入ったカフェで茶を啜りながら、ミアは頬を弛緩させていた。

 俺もミアにつられて、一緒に頼んだ茶を飲んでみる。

 柑橘系の匂いがして、どこか暖かな甘みのある落ち着く味だった。

 ついでにミアが頼んでいたクッキーも少しもらってみると、サクッと軽い口当たりでバターの香りもして、こちらもかなり美味かった。


「いやー、今更だけど本当にラルド兄さんが本当に来てくれるなんて。正直、あたしは感激してるよ」


「おいおい、そんなに言うほどか?」


 苦笑しながら聞くと、ミアは上機嫌気味に「うんうん」と大きく頷いた。


「言うほどだよ。だってラルド兄さん、本当にミスリルばっかりだったじゃん。……声をかけなきゃ、こうやってあたしと出かけてもくれないくらいには」


「まぁ、最近鍛冶に熱中していたのは認めるけどな」


 実際ミスリル加工の手際も良くなってきていて、マロンの次にチョコやプラムもと思い、自然と集中力が向上している自覚はあった。


「でもこうしてわがままに付き合ってくれたから、許してあげる。最近は冒険者界隈も物騒だし、あたしもこういう息抜きは欲しかったんだよね……」


 ミアはそう言って、珍しくため息を吐いた。

 ほぼ常にはつらつとしているミアがこうも分かりやすく疲れた様子を見せるのは、かなり珍しかった。


「物騒って、事件でもあったのか?」


「うーん……ラルド兄さんにも一応は言っておいた方がいっか」


 ミアは「無関係じゃないもんね」と前置きをして、こほんと咳払いをひとつ。


「実は最近、例の闇ギルド……【双頭のオロチ】の残党が活動しているって噂があるの」


「残党か……何人くらいなんだ? いくら【双頭のオロチ】でも、サフィアやミア、それに温泉街の冒険者ギルドの皆にアジトを壊滅させられたんだし。あまり人数はいないとは思うが……」


「うん、相手は多分一人って言われてる。でもその一人が【双頭のオロチ】を潰したギルドの面々を潰しているって噂があって。現にあたしのいるギルドでも何人か連絡の取れない人や、行方不明者が出ているし……その中には、温泉街の様子を見に行ったマイングもいるんだよね」


「あの人、牢から出ていたのか……。でも行方不明って穏やかじゃないな」


 マイングに問答無用で斬りかかられたのは記憶に新しいが、だからと言って行方不明というのも心配になる。

 一応は彼も、ミアやサフィアと同じギルドに所属しているのだから。


「……と言っても、マイングは腕っ節に関してはB級以上だし。案外温泉街からの帰りに遺跡に入っていて、それで連絡が取れないだけかもしれないし。あいつは待っていれば、そのうち戻って来そうな気はするけどね」


「まぁ、ミアがそう言うならそうかもな」


 ミアも同じギルドに所属するマイングの実力を知ってそう言うのだろう。

 それならしがない武器職人の俺は頷く他ないし、下手な話をして不安を煽ることもない。


「でももし【双頭のオロチ】の残党に襲われでもしたら、すぐに冒険者仲間のところか俺の店に駆け込んでくれよな。うちには精霊もいるし、庇うくらいならできるだろうから」


「んっ。もしかして、あたしのことも結構心配してくれてる?」


「当たり前だろ、逆に心配しないと思ってたのか」


 俺は至極大真面目に言ったつもりだったが、ミアはくすりと笑った。


「……ううん、別に。ただそう言ってもらえて、ちょっと嬉しいなぁって。今のラルド兄さんの周りには女の子いっぱいだし、最近あたし放置され気味だったから」


「最近構えなかったのは悪かったけど、それとこれとは話が別だ。そりゃミアには怪我とかして欲しくないし、力になれるなら俺も嬉しい。それにこれから先はその……物騒ならもうちょっと会えるようにもするから。……もうあまり拗ねないでくれよ、な?」


 そう言うと、ミアは少し固まってから一気に顔を赤くした。


「……どうかしたのか?」


「う、うーんと。……まさか面と向かって、そこまで言ってもらえるなんて思わなくって……ね? ……ず、ずずー……」


 ミアはどこか誤魔化すように目を逸らして、再び茶を啜り出した。

 ……そう言う反応をされると、俺も少し恥ずかしいことを言ったのかと思えてしまうのだが。

 それでもこっちは大真面目な話だったし、久しぶりに赤くなったミアも見られたしで悪くなかったかなと、俺も残りの茶を啜った。

 案外、冷めても上手い茶だった。


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