2話 ブロンズソードの精霊さん
「ごめんラルド兄さん! この馬鹿にはあたしからちゃんと言っておくから!」と謝るミアに、倒れたマイングを引き取ってもらった後。
俺は売り場の裏にある作業場に入って灯りをつけ、依頼書を見ていた。
「ふんふん。次はジークくんとタリーさんのブロンズソードか。小盾は……納品までまだ猶予があるし、次でいいか」
俺の売る武器はどれも、店に置いてある分を除いては基本的にオーダーメイド品だ。
というのも、冒険者には男性も女性もいる上、十五歳になったばかりの新米冒険者には背が伸びきっていない人も多い。
だからこそ、体に合わない武器を使って怪我をしないようにあらかじめ依頼者の体を採寸して、その人にあった一品を作っているという訳だ。
「そうやってオーダーメイドで作ると、皆喜んでくれるしな……」
「その人に合った武器を作る」と言うスタンスで初めてミアに武器を作った時からやってきたが、そうすると皆「使いやすい」と喜んでくれるのだ。
そうだからか自然とリピーターも増え、口伝えで「新米にオススメの店はラルドの武器屋だ」と皆言ってくれるようになった。
お陰で客の数も安定し、開店してからは生活に不自由しない程度の稼ぎを生み出せている。
それに心を込めて作った武器を冒険者に渡すと、皆満足げな表情を見せてくれる。
そんな暖かな表情も、俺の心の支えになっていた。
「……さて、今夜も始めるか。【武器職人】スキル、起動!」
鍛錬も兼ねて毎日欠かさず使用しているスキルを起動すると、空中にウィンドウと呼ばれる半透明な板のようなものが現れた。
そこには武器種ごとの必要素材やその量、大きさ、耐久値などなど、様々な欄があった。
最初はここまで細かに分類されていなかったのだが、スキルを使い続けているうちにいつの間にか増えていった。
これが俗に言う、レベルアップというやつなのかもしれなかった。
「採寸したジークくんやタリーさんの情報を入れて、最適な武器の長さはっと……」
いつも通りに依頼者の情報をウィンドウに入力し、武器のステータスを確認する。
それから【武器職人】スキルの力で目の前に現れた特殊な炉の中にブロンズソードの素材を入れ、諸々の作業を進めたところで……。
ピコーン! と音がした。
「ん、何だ何だ?」
今、開きっぱなしにしていたウィンドウから音が鳴った気がした。
スキルの力で素早く生成されたブロンズソードを炉の中から取り出しながら、ウィンドウを確認してみる。
「……スキル進化?」
ウィンドウにデカデカと表示されていたのは、そんな文字だった。
こんなウィンドウは見たことないな……と思いながら触れてみると、何やらウィンドウが光り出した。
「うわっ!?」
目をつむるが、強い光はすぐに収まった。
それからウィンドウを見ると、そこには【精霊剣職人】の文字が。
「……何だこれ?」
ウィンドウに表示されているスキル名が変わっている。
「スキル進化って文字もあったし、文字通り【武器職人】スキルが進化したと……?」
でもそんな話、聞いたこともない。
けれど現に、スキルの名前が変わっている。
「まぁ、剣を一本作ってみれば分かる話か……」
そうしていつも通りに特殊な炉に素材を入れ、一本ブロンズソードをこしらえてみたところ。
「わっ……やった! 作ってもらえましたー!!」
……何だか、女の子の声みたいな幻聴が聞こえた。
「最近夜遅くまで仕事してるし、疲れてんのかな……?」
「幻聴じゃありませんよ、ご主人さま?」
「……はい?」
今、手元の剣から声がしなかったか?
「もう、その表情では飲み込めていないようですね……でしたらっ!」
次の瞬間、ブロンズソードが輝いて俺の手元を離れた。
そして目の前に、くりっとした瞳と栗色の髪をした少女が現れていた。
「な、な、な……」
「初めまして、ご主人さま。わたしはブロンズソードの化身、人間たちのいうところの精霊です。わたしのことは、そのままブロンズソードと呼んでいただいても……あらっ?」
「何じゃこりゃああああああああ!!??」
自分の作った剣が、可愛い女の子になって喋り出した。
想像を遥かに超えた超現象を前に、俺は驚く他なかった。