24話 【精霊剣】とアーティファクト
「へぇ……白い湯の川か。また不思議な光景だな」
「ええ、それに温泉の不思議な匂いがします」
ジグルに言われた名所をあちこち回ることしばらく。
俺たちは夕暮れ時、流れ出た湯が浅く川のように流れる「白の河原」と呼ばれる場所に来ていた。
近くで買った、温泉の蒸気で蒸したマンジュウと言う東洋の菓子をかじりながら、白く煙る浅瀬を眺めてみる。
湯の成分のせいか周りの岩なんかも白いので一面真っ白であり、俺たち以外の観光客もその光景を物珍しそうに見つめていた。
「すごい。雪でもないのに真っ白」
チョコもマンジュウをもぐもぐと頬張りながら、白の河原を眺めていた。
「ふむ、景色を楽しみながら菓子を齧れるのも精霊になればこそだ。マスター、もう少し奥へ行ってもいいか?」
「構わないぞ。宿の夕食の時間までまだ時間はあるし、ちょっと進んでみるか」
そうして俺たちは岩を伝って、浅瀬の上を移動していった。
「ご主人さま、かなり幻想的な風景ですね」
「幻想的か……確かにな。下から煙る蒸気に一面白い岩って景色もここ以外じゃ中々見れないってジグルも言ってたしな」
歩きながらそう言うと、マロンがふと呟いた。
「……それと少し、懐かしい感じがします」
「懐かしい?」
「はい。わたしも精霊になる前、ブロンズソードの『意識』や『概念』だったころはこんな風に景色が白く霞んでいた気がします」
「あ、チョコもそんな気がする」
「ふむ……言われてみれば妾もそうかもだ」
マロンの言葉に、チョコやプラムも同意していた。
「やっぱり精霊になる前と後だと、色々と感覚も変わってくるんだな。……って言うかさ、その武器の『意識』ってやつで思ったんだけど。……同じ武器のアーティファクトにも、その『意識』とかってあるのか?」
アーティファクトも武器として使われている。
それならもしやと興味本位で聞くと、三人とも首を横に振った。
「いいえ、もうアーティファクトには『意識』はありません。太古の遺跡で永く眠っていた影響でしょうか、もうほとんどアーティファクトたちからはそう言ったものを感じませんね」
「だから【精霊剣】になれるのは基本、ラルドの作れる現代の武器」
「それでいて、妾たちのように使い手が多い汎用的な武器だな。使い手の数ほど武器の母数も増え、精霊としての『意識』も拡張されて武器としての『概念』も強化されていく。……小難しいのであまり理解はしなくてもいいが、そんなところだ」
「つまり世の人が多く使っている現代の武器だけが、【精霊剣】になれる条件を満たしているのか。しかし元がありふれた武器って思えば……やっぱり【精霊剣】って本当に不思議だな」
改めて考えれば、武器に精霊が宿るというだけでも特大の超現象だ。
その上、元々がありふれた武器であるにも関わらず、遺跡の至宝こと【聖剣】をも上回る魔力出力を【精霊剣】たちは叩き出せる。
「【精霊剣職人】ってスキルを他に持っている人がいれば、その人からまたノウハウとかスキルの秘密を教われただろうけど……そもそもそんな人、聞いたこともないしな」
そう呟くと、マロンが口を開いた。
「いいえ、そもそも【精霊剣職人】のスキルを持つのはご主人さまのみのはずです。もし【武器職人】スキルを持つ誰かがそのスキルを進化させたとしても、また別のスキルとなるかと」
「……? どうしてなんだ?」
「スキルと言うもの自体、同じ種類のものと分類されていたとしても個人個人によって細かな誤差があるからです。そしてそれは経験値をカンストさせてスキルを進化させれば、より顕著に尖った特徴を持って現れます。……要するにこの世にはよく似たスキルはあれど、厳密には完全に同じスキルと言うものは存在しないと言うことです。進化後のスキルであれば、特に」
マロンの話に、俺は「……なるほど、そういうもんなのか」と頷いた。
たとえば【魔眼】スキルで相手の魔力の質を探る時、ある人は魔力を色で見ると言うし、またある人は魔力の形が見えると言う。
……マロンが言っているのは多分、そういう個々人ごとの差についての話なのだろう。
立ち止まって考え込んでいたら、手を引こうと握ってきたチョコが言った。
「だからラルドは、唯一無二の職人。【精霊剣】を使って無双できる、唯一の人」
「無双って……そりゃ冒険者の仕事だよ」
いつも通りの眠たげな表情でことも無げに言ったチョコに、俺は笑って言った。
「武器職人として店をやっている以上、あまり無双って言われてもピンとこないし。俺はこのまま皆と一緒にゆっくり過ごせればそれでいいさ」
俺がそう言うと、精霊三人はくすりと微笑んだ。
まるで俺がそう言うのを最初から分かっていたような、そんな雰囲気だった。
「まぁ、マスターが戦好きの男でないから妾たちもこうして穏やかに過ごせている。これから先もその調子で頼むぞマスター」
「それはもちろんだ」
……と、こんな調子で話し込んでいたらいつの間にか日も暮れていき。
俺たちは「白の河原」散策を終え、宿へ戻って行った。




