22話 騒動の後は温泉で
ミアとサフィアが後始末や報告書が残っているのでと、宿の部屋を出た後。
俺はどたばたしていた夜中の疲れを癒すため……
「はあぁ〜、生き返るぅ……」
念願の温泉に浸かっていた。
実は今泊まっている部屋、少し高いのだが小さな温泉が一つついている。
当然外からは見えないよう木々やら柵やらでうまく細工されているが、上を向けば一面の青空。
朝の爽やかな空気も相まって、最高の朝風呂だった。
「疲れが湯に溶けてく、最高だ……。後は勝手に体も綺麗になれば良いのにな……」
「でしたら、これからお背中をお流ししましょうか?」
「ああ、是非頼む……んっ!?」
……何だろうか、聞こえちゃいけない声が耳に届いた気がした。
ゆっくりと首を後ろに回せば、そこには。
「お背中、流しに来ちゃいました」
タオルに身を包んではにかむ、マロンの姿があった。
こうして見ると、本当にスタイルもいいな……って今はそうじゃない。
そもそも「来ちゃいました」じゃなくて!?
「ま、マロン!? 一体いつの間に入ってきたんだ……!?」
家でもこんなハプニングは起きなかったので、本当に予想外もいいところだ。
半ばあわあわしていると、マロンが寄り添うようにしてきて言った。
「ご主人さまもお疲れだと思いましたので、わたしが癒しにきました」
マロンの顔は少し赤くなっていて、声も心なしか普段よりも艶っぽい。
……ま、まずい。
何か、変な気分になりそうだ……!
反射的に顔を逸らすと、マロンは唇を尖らせて珍しく拗ねた様子で回り込んできた。
「ご主人さま。……そんなに気に入りませんでしたか? これでもわたし、少し勇気を出してきたのですけれど。それにご感想などもないのですか?」
「あ、ああ。肌も白くてスタイルも良いしすごく綺麗……って頼むそれ以上密着しないでくれ……!」
何だこの生殺し空間は。
天国なのかそうじゃないのか、いまいち判別がつきにくい状況なのが妙に残念だった。
「あら、この岩の湯船もあまり広くはありませんから。肌が触れてしまうのも仕方がないかと」
マロンは少し茶化したようにくすりと微笑み、そう言ってきた。
それからふと目を閉じ、マロンは少し間を空けてから話を続けた。
「……ご主人さま、昨夜は諸々ありがとうございました。今回の件、わたしがシルリアを庇ったことから始まったのに、わたしはほとんど何もできず……。ご主人さまを守る【精霊剣】なのに、不甲斐ない限りです」
そんなふうに謝ってきたマロンに、俺は即座に首を横に振った。
「いや、そんなことない。寧ろマロンが真っ先にシルリアを庇ってくれてよかった。お陰でシルリアも怪我をせず済んだんだから」
俺はそう言って「だから……」と続けて。
……どうしたもんかなと、マロンの頭を撫でてみた。
「あまりそう硬くならないでくれよ、俺はマロンが悪いとかそんなこと全然思っていないから。……それと、もしかしてこの話がしたくて一緒の温泉に入ってきたのか?」
「……やっぱり、分かってしまいますよね?」
「あんなに神妙な顔で謝られたらな。でも大丈夫だ、騒動も大団円で解決したみたいだし。本当に気にすることないんだぞ?」
それにマロンの真っ先に誰かを庇えるような優しい性格は、俺もとても良いと思う。
……きっとマロンのこんな優しさや気遣いの心は、この世知辛い世の中では得難く出会いにくいものだと思うから。
「……さて、この話はもうおしまいだ。それで温泉を出たら皆で少し休んで、予定通りに観光と洒落込もう。皆で行けば、きっと楽しいからな」
「はい……そうですね。ご主人さま、ありがとうございます」
マロンは普段通りの輝くような笑顔を取り戻し、そう言った。
やっぱりマロンは明るい笑顔が似合うなと、俺は思った。
ただし……温泉から上がったすぐ後で。
「ほう、マスター……朝からお楽しみだったか?」
「お楽しみ?」
「いや待った、やましいことはなかったぞ!?」
意味深げに微笑むプラムと小首をかしげるチョコの妙な誤解を解くこととなったのは、ここだけの話だ。




