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1話 不遇スキルを授かってから、現在

 世の中で不遇スキルとされる【武器職人】を手にしてから、数年後。

 俺は現在……


「ラルド兄さん。頼んでおいたブロンズソード、仕上がってる?」


「はいよ、出すからちょっと待っててくれ」


 ……何と、立派に武器屋を営んでいた。

 依頼者である冒険者の少女、ミアに合わせて作成したオーダーメイド品のブロンズソードを見つめながら、俺は思わず苦笑した。


「まさか本当に武器職人になるなんて、あの時は思ってもみなかったな」


 当時冒険者の夢を断たれて絶望していた俺の元に、一人の新米冒険者が現れた。

 それが今目の前にいるミアで、ミアはあの時自分に合った武器が欲しくて【武器職人】スキル持ちの人材を探していたのだとか。


 そして手持ち無沙汰だった俺はどうにでもなれとスキルを起動し、試しにミアにぴったりのブロンズソードをこしらえてやったのだが……。


「やっぱりラルド兄さんの作るブロンズソードは一番いいね、手に馴染むし振りやすい。下手なアーティファクトより全然いい感じ」


 この通り、当時からミアには大絶賛だった。

 それからしばらくして、俺はミアの推しもあって武器職人としてしばらく頑張ってみようと思い至った。

 ……その結果、紆余曲折を経て意外とそこそこの稼ぎとなり、自宅の一部を店に改装して今に至る。


「……まぁ、こうやって冒険者たちの支えになっているなら悪くないか」


 俺の作った剣が、昔の俺のような幼い子供を救うことにも繋がるのなら。

 それでもいいかと思えるくらいには、俺もどうにか立ち直っていた。


「しかしミア、お前はもうB級冒険者だろ? 駆け出しからはもう程遠いのに、こんなブロンズソードばっか使ってていいのか?」


 冒険者ギルドが定めた冒険者の等級は、最下級のFから最高のSまである。

 その中でB級といえば、中堅どころの上位にしてベテランの一歩手前と言えるほどの地位だ。

 それこそブロンズソードではなく、冒険の中で手にしたアーティファクトを固有武装にしていてもいいと思うのだが。


「ううん、あたしはこれがいいの。ラルド兄さんのブロンズソードは頑丈だし、わたしに合った長さだから扱いやすい。何より……あたしのスキル、知っているでしょ?」


「ああ、【抗魔力】だったよな」


 ミアの持つ【抗魔力】スキルは、魔力を保持する魔物の攻撃から一定までの魔術を無効化する、戦闘向きな防御スキルだ。

 しかしそのスキルの発動中はアーティファクトの魔力もカットしてしまい、アーティファクトの働きを阻害してしまうのだとかで。


「それで普通のブロンズソードって訳か。でも事情を知ってないと、中々謙虚なB級冒険者に見えるな」


 けけけ、と笑って茶化すとミアは子供っぽく頬を膨らませた。


「もう、元々謙虚だもん! それに、普通のブロンズソードじゃないよ。ラルド兄さんの作ったブロンズソードじゃなきゃいけないの」


「嬉しいこと言ってくれるな。まぁ、また来てくれよ」


「また依頼終わりに絶対来るから、今度はパーティーの皆も連れて。それじゃっ!」


 ミアは店のカウンターにお代を置いて、元気よく駆け出して行った。

 それから客が引いてきた頃合い、物品の整理をしていたらふと店の扉が開いた。


「いらっしゃいませー……ん?」


「けっ、ブロンズソードにシルバージャベリン、それに革の防具ばっかか。いつ来ても辛気臭い店だな、見栄えも考えてミスリルの弓くらい置いておいたらどうだ?」


 店に顔を出したのは、粗暴な言動の大柄な冒険者だった。

 名をマイングと言い、ミアと同じB級冒険者だった筈だ。


 ……また来たのかと、俺はため息をつきたくなった。

 マイングは何を思ってか、定期的にこの店にやって来るのだ。


「ここは新米冒険者に合わせた品揃えにしているので。何ならマイングさんも、初心を思い出すって意味でいくつかブロンズソードを買っていかれてはいかがです?」


 営業スマイルでそう言ってみると、マイングはケッと舌打ちした。

 それから俺を睨みながら言った。


「単刀直入に聞くが……お前、ミアに何をしてやがる」


「えっ?」


 一瞬どういうことかと固まると、マイングはさらに凄んできた。


「とぼけんな。B級冒険者のミアの愛刀がこんな小店のブロンズソードなんて冗談、流石に笑い流せねーよ。あいつとは同じギルドの仲間なんでな。……で、実際はどうなんだ? どんな脅しをかけてやがる? 売り上げがないから定期的に買い取らせてんのか?」


「い、いやいや。実際も何もミアが好んで買っているだけで……」


 マイングは遂に、俺の襟首を掴んでぐぃと片手で持ち上げた。


「いい加減、吐いたらどうだ? この【武器職人】風情がよ。お前が口を割らねぇってんなら、体に聞いてやろうか?」


 その脅しを聞いて、俺は気づいた。


 ──こいつ、こっちの話を聞く気は最初からなかったな!?

 それに定期的に店に顔を出していたのは、ミアが心配で様子見しに来ていたからか。


 マイングとミアがどんな関係なのかは知らないが、ひとまずここは誤解を解かなければ。

 そう焦った刹那、視界の端で何かがきらりと輝いた。


「……ん?」


 首を向けた時にはもう、棚に置いてあったはずのブロンズソードがすっ飛んできて、その柄がマイングの脳天に鋭く直撃しているところだった。


「が、アァ……!!??」


 いくらB級冒険者でも殺気もなく飛んできたブロンズソードには対応できなかったのか、マイングは俺を離して白目を剥いて昏倒した。

 それからカラン! とブロンズソードが音を立てて落ちる。

 俺はすぐに、自分とマイングしかいないはずの店内を見回した。


「お、おいおい、誰かいるのか……!?」


 けれど店の中はしんと静まっていて、誰かがいる気配もない。

 それなら何故ブロンズソードが飛んできたのかと思いながら、俺は首をひねった。


「……ひとまず、幽霊か精霊あたりのいたずらとでも思っておくのが妥当か……?」


 大分オカルトチックだけれど、他に考えようもなかった。

 ……なお、気絶したマイングはその日の晩にやってきたミアとその仲間たちに引きずられ、冒険者ギルドへと連行されていった。


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