16話 プラムの力と遺跡の結界
遺跡に入ると左右の壁には既に持ち込まれたと思しき松明や魔石灯がついていて、明かりが十分確保されていた。
それに奥へ進んでいく道中魔物もほぼ現れず、現れてもミアとサフィアが瞬殺していく有様だった。
そんな様子を見て、プラムが小さく頬を膨らませていた。
「むぅ……妾としてはマスターとの初陣ということで、華々しく暴れてやろうという魂胆だったのに……」
「まぁ、遺跡最奥部の結界内にある【聖剣】を見つけられたってことは、逆に最奥部以外の場所はミアやサフィアたち冒険者が踏破済みってことだからな。魔物もあらかた狩り尽くされた後なんだろう」
そう言うと、ミアが「ラルド兄さん、察しがいいね」と反応した。
「実際ラルド兄さんの言う通りで、この辺にはもうあまり魔物は出ない筈だよ。でなきゃあたしたちが護衛しているとはいえ、危なっかしくて武器職人のラルド兄さんをこんな場所に呼べないもん」
「くっ、妾の初の冒険が……!」
「まあまあ、落ち着いてくださいプラム。ご主人さまに危険が及ばないこと、それがわたしたちが最も大切にすべき点ではないですか」
「うん、チョコもそう思う〜」
妙に残念がっているプラムを、マロンとチョコがなだめていた。
ううむ、やっぱりモーニングスターのプラム的にはガツン! と魔物をふっ飛ばしたかったのだろうか。
「さて、話もほどほどにしてそろそろ着くぞ。じきに結界も見えてくる」
サフィアがそう言ったすぐ後、俺たちは開けた地下空間に出た。
ドーム状になっている空間のその中央に、光の正方形が現れている。
大きさは家三軒ほどで、その中に一振りの剣が浮いている。
「なるほど。あれが【聖剣】と結界か……マロン!」
「承知しました、ご主人さま!」
マロンは【精霊剣】ブロンズソードへと変身し、俺の手の中に収まった。
「ご主人さま、この結界の起点を発見しました。そこを叩けば、この結界も崩れ去るかと」
「よし、分かりやすくて助かるな」
俺はマロンの指示に従い、結界の起点らしき箇所へと移動した。
見た目からは判断がつかないが、よくよく感じてみればその点だけ魔力の集まりが他よりも濃かった。
「マロン、身体強化を」
「了解です!」
俺はマロンの力で体を強化してもらい、ブロンズソードを一気に振り下ろした。
刀身が結界の起点に接触した瞬間、マロンはさらに魔力を放って起点を破壊しにかかった。
先日、サフィアの【聖剣】から展開された超重力結界を破った時と同様の方法だ。
……しかし。
「んなっ、硬い……!?」
結界の起点には小さな傷がついた程度で、破壊するまでには至らなかった。
ジンジンと痺れる手の中で、マロンがかちゃりと音を立てた。
「申し訳ございません、ご主人さま。わたしの魔力噴出でも破壊不能とは、この結界を作っている中の【聖剣】はどうやら防御特化型のようですね……」
ううむ、それならどうするか……と悩んでいた時。
にやりと不敵な笑みを浮かべていたのは、誰あろうプラムだった。
「マスター、要はこの結界を破壊すればいいのだろう? それなら妾が適任なのは自明の理!」
「自信ありって訳か。それならプラム、【精霊剣】としての初仕事を一発頼む」
「任されよ、マスター!」
プラムは赤い光を放って【精霊剣】スカーレットモーニングスターへと変化した。
俺は思い切り振りかぶって、モーニングスターの鉄球部分を結界に叩きつける……すると。
「この程度の結界など、妾の前では紙切れに等しい!」
鉄球部分から魔力が生じ、小爆発が起こった。
その際にプラムから感じた魔力は、瞬間的ながら普段のマロンの数倍。
そのまま鉄球は爆発と共に結界を叩き破り、その一部を粉々のポリゴン状にして大穴を開けてしまった。
「おいおい、こんなにあっさりと……!?」
思わず、驚愕の声が漏れた。
今のを見るに、どうやらプラムの能力は鉄球炸裂時の魔力爆発らしかった。
そして件の結界がプラムの力の前にあっさり穴を穿たれたことに、それを見ていたミアとサフィアはぽかんとしていた。
「い、いくらラルド兄さんの【精霊剣】が凄いって言っても……」
「……S級冒険者のわたしでさえ匙を投げた結界を、こうも簡単に破壊してしまうとは。ますます武器職人にしておくのが惜しく感じられるな……」
ミアとサフィアがそんなことを呟いている間にチョコがトテトテと走って結界に開いた穴に入り込み、【聖剣】を回収しに向かった。
チョコは体が小さかったので、開けた穴から結界の中へと簡単に入り込めたのだ。
そして鞘に収まっている【聖剣】を、俺の方へと持って戻ってきた。
「ラルド、これ」
「ありがとうなチョコ」
【聖剣】を受け取りながらよしよしと頭を撫でると、チョコは満足げに目を細めた。
「よし、それじゃあ【聖剣】も回収できたしとっとと帰るか……うおぉっ!?」
いきなり、地面が大きく揺れた。
何事かと思った途端、最奥部の四方の壁が崩れて中から巨大な人型が四体現れた。
「ミスリルのゴーレム……!? やっぱり出てきた!」
「……ん、やっぱりって?」
聞くと、ミアは「あはは」と苦笑い気味に答えた。
「大体【聖剣】って言うのは、アーティファクトの中でも上位の物にして遺跡の至宝とも呼ばれるくらいの物だから。回収すると、こうやって遺跡の防御機能が働いてドラゴンとかゴーレムが出たりするの」
「んなっ、そんなことあるのか」
遺跡に入ったこともなかったので、その辺りは全然知らなかったな。
と言うか、ドラゴンも出るって逆にあのゴーレムの強さもドラゴン並みなんだろうか。
……と、ミアと話していたその最中。
「押し潰せ、ラプテリウス!!!」
サフィアが間髪入れずに【聖剣】を振るって、四体のゴーレムを超重力結界の中に閉じ込めた。
それから超重力結界の名に恥じない力によって、ドラゴン並みの強さだったと思しきミスリル製のゴーレムたちを次々に圧壊させてしまった。
「おぉ。流石にS級、早技だったな……」
「うむ、今回わたしはあなたの護衛だからな。【聖剣】回収以外では手を煩わせないとも」
サフィアは得意げにそう言って、自身の【聖剣】を鞘に収めた。
それから俺たちは遺跡を出て、来た時と同じように転移魔術によって街まで無事に戻ったのだった。




