14話 第三の【精霊剣】
「ラルド、ラルド」
「ん、どうしたチョコ」
仕事終わりの夕食後。
チョコは俺に張り付いてきながら、いつも通りの舌足らずな声で言った。
「チョコ、妹が欲しいの」
一瞬「んっ!?」と思ったが、チョコが何を言いたいのかはすぐに分かった。
「もしかして、新しく【精霊剣】を増やして欲しいのか?」
「うん」
チョコはこくりと頷いた。
「できればチョコよりちっちゃな子がいい、妹だから」
「そう言われてもなぁ……」
俺自身、【精霊剣】となった武器にどんな精霊が宿るのか分からないので何とも答えにくかった。
「しかし新しい【精霊剣】を増やすと言うのもいいかと思います。ご主人さまの【精霊剣職人】としてのレベルも上がって魔力量も増えているように思えますし、三本目の【精霊剣】でもよい精霊が宿るかと」
茶を飲みながら話を聞いていたマロンも、【精霊剣】を増やすことには賛成らしかった。
ちなみに、マロンやチョコたちには定期的に俺の魔力を少しづつ分け与えている。
でないとマロンたち【精霊剣】は、精霊の姿を保てず武器の姿に戻ってしまうのだとか。
作り手の魔力を分け与えることで、【精霊剣】の精霊たちは安定した活動ができるらしい。
だからこそ、俺は今まで【精霊剣】はマロンとチョコの二人だけにとどめていたのだが。
「確かに俺の魔力も増えている気がするし、マロンがそう言うなら作ってもいいかもな。ついでに店も最近は繁盛気味だから、人手は多いに越したことはないし。ならどの武器を【精霊剣】にしようかって話なんだけど……」
店に移動し、中をぐるりと見回す。
「チョコ、この子がいいと思う」
「おぉ、スカーレットモーニングスターか」
チョコが手にとっていたのは小ぶりなモーニングスターだった。
柄の先に短い鎖がついていて、鉄球と繋がっているタイプのもの。
魔石素材によって色合いが緋色になっているので、他のモーニングスターと区別するために俺がスカーレットモーニングスターと呼んでいたものだ。
新米冒険者にも扱いやすいようにとこのサイズに作ってみたのだが、なるほどチョコはこのサイズ感を気に入ったのかもしれなかった。
「モーニングスターですか、悪くないかと思います。わたしが切断系でチョコが遠距離攻撃系ときましたら、打撃系の【精霊剣】を作るのもバランスがよいかと」
「よし、じゃあ新しい【精霊剣】はこのモーニングスターに決定だな」
俺はチョコからモーニングスターを受け取り、店の作業場へ向かった。
そしてスキルで炉を作り出し、その中へとモーニングスターを入れる。
……毎度思うのだけれど、この武器に精霊を宿して【精霊剣】にする炉はどんな仕組みなんだろうか。
どうやら自分で作った武器にしか精霊は宿らないらしいと、それだけは分かるものの……。
「……と言っても、そもそもスキル自体が神さまから与えられる特殊なものだし。その辺も神さまにしか分からないのかもな……おっ」
しばらくすると、炉からモーニングスターが出てきた。
横を見ると、チョコが瞳を輝かせてそわそわした面持ちになっている。
普段の眠たげな様子が嘘のようだ。
「ラルド、早く早く」
「分かった分かった、少し待ってくれよ。マロン、このスカーレットモーニングスターもちゃんと【精霊剣】になってるか?」
「はい。チョコの時と同様に成功です」
マロンがにこりと微笑むのと同時、手の中にあったモーニングスターが光を放った。
それからすとんと現れたのは、澄んだ赤髪の少女だった。
背はマロンより少し小さいくらい、しかし……。
「……、…………」
チョコが無言で頬を膨らませ、そっぽを向いている。
うん、言いたいことはわかる。
胸も大きいしスタイルもいいし、これはどう見ても妹ってよりお姉さんだ。
現れた精霊は俺を見つめて、不敵に微笑みながら言った。
「この精霊の姿では初めましてだ、マスター。妾は【精霊剣】スカーレットモーニングスター、マスターの敵を砕く牙として仕える。以後お見知り置きを」
「頼もしい自己紹介をありがとう、俺はラルド。それに精霊のマロンとチョコだ、これからよろしく」
手を差し出すと、スカーレットモーニングスターの精霊は明るい表情で俺の手を握り返してから、マロンとチョコを見比べた。
「ふむふむ、妾が三本目の【精霊剣】なのか。それにもう二人には名前がついてると」
「流石に武器の名前そのままで呼ぶわけにもいかないからな。ちなみに君はなんて呼べばいい?」
そう聞くと、スカーレットモーニングスターの精霊はあっけらかんと言った。
「それなら、プラムと呼んで欲しい。妾の髪も武器形態も似たような色だし、ちょうどいいと思う」
「あ、ああ。分かった……って言うか」
今更ながらマロン、チョコ、プラムって三人とも食べ物の名前だ。
人間名前に馴染みのない精霊だからこそ、そう名乗っているのかもしれないけれど。
「まぁ、馴染みやすい名前でかえっていいかもな」
俺はそんなことを思いつつ、三本目の【精霊剣】プラムを迎えたのだった。




