9話 決闘の申し込み
「マロンちゃんもチョコちゃんも今日も可愛いね〜、また来るよっ!」
「はい、毎度ありがとうございます!」
カウンターで接客するマロンは今日も元気いっぱいに働いていた。
その横で商品の陳列をしているチョコも、眠たげな瞳だったが片手を振って冒険者を送り出していた。
ここ最近、二人の看板娘のお陰か店に来てくれる冒険者の数が増えた気がする。
それにマロンが暇を見つけてはお客さんに
「ご主人さまの作るブロンズソードはいいですよ、何と使い手に合わせて作ってくれます!」
「安価で頑丈、それに魔力も通しやすいので新米さん以外にもおすすめです!」
と売り込んでいるからか、ブロンズソードのオーダーメイド発注がこれまでの倍ほどに増えている。
そのため、店の売り上げも日に日に伸びており中々充実した日々を過ごせていた。
「これくらいちゃんと品が売れれば、世の中で【武器職人】が不遇職扱いされることもないだろうに……」
思わず、そう独りごちてしまうほどだった。
とは言えこの街にはいくつか冒険者ギルドがあり、新米冒険者のお客さんもそれなりに多いからこの店の経営も成り立っていると言う面もあるんだろうけれど。
ゆくゆくは中堅どころの冒険者向きの商品も考えられればなぁと感じる次第だった。
「さて、そろそろ昼休憩にしようか。次の開店はまた午後から……」
と、お客さんが引いたところで店の立て看板を一旦「close」にしようとしたところ。
横から「失礼」と声をかけられた。
見れば、金髪碧眼の騎士のような出で立ちの若い女性が立っていた。
「あなたがこの店の店主だろうか?」
「はい、そうですけどあなたは……?」
聞くと、女性は自分の胸に手を当てて名乗った。
「わたしは冒険者ギルド【風精の翼】所属のサフィアという者だ」
「俺はラルドです。【風精の翼】のサフィアさん、ですか」
「いや、わたしのことはサフィアでいい。見たところ歳も近いしな、敬語も一切不要だ」
サフィアさん……いや、サフィアはサバサバとした様子で言った。
ちなみに【風精の翼】と言えば、ミアやマイングが所属するこの街でも一位二位を争う強豪ぞろいのギルドだ。
それにサフィアという名前は前にミアから聞いた気がしたが、かなり前の話だったのでよく思い出せなかった。
「その、来てくれたところ悪いんだけどさ。店は昼休憩で一旦閉めようと思うんだけど、もしかして買い物?」
敬語も要らないと言うので自然体で聞けば、サフィアは首を横に振った。
「いや、すまないが買い物ではない。用があるのはあなたにだ、ラルド。先日は我がギルドの阿呆が迷惑をかけたそうで、詫びを言いにきたのが一つ。それと……」
サフィアさんは軽く頭を下げてから、改まった様子で言った。
「ラルド。この場でこう言うのは恐縮なのだが、あなたに勝負を申し込みたい」
「……えっ?」
勝負、職業【武器職人】の俺と?
「いやいや、冒険者相手じゃ流石に……」
それに危なそうだしと思いつつやんわり断ろうとすると、サフィアは一歩前に踏み出してきた。
「ワイバーン討伐実績を持つマイングをも倒した【武器職人】の腕前、是非とも知りたい。それにわたしも未だ修行中の身、強者との戦闘経験は是非積みたいのだ。どうか頼めないか?」
……マイングあいつ、地味にワイバーンとか倒してたのか!
また厄介な方向に話が進みつつあるのと、サフィアの綺麗な顔が間近にまで迫っていて俺としてはわたわたする他なかった。
「ならば、店で少し多めに買い物をして行こう。それに我がギルドの面々や他ギルドの知り合いにも、店のことは大々的に紹介しておく。要は金のかからない広報だが……どうだろうか、商人としては悪くない条件ではないか?」
「む、むうぅ……」
確かに、俺に金銭的なアドバンテージしかない話だ。
俺も商売で【武器職人】をやっている以上、食いつきたい思いも少しは出てきた……けれど。
……でも、それでマロンたちを巻き込んでいいのか?
きっとマロンたちの助けを借りなければ、俺は一瞬で倒されてしまうことだろう。
店のこともあるので、できれば怪我も避けたいが……。
「ご主人さま、やりましょう」
「ラルド、チョコも協力する」
「二人とも……!」
いつの間にか、【精霊剣】の二人が現れていた。
「わたしたちは武器です。ご主人さまの身を守ることこそが務めであり誇り」
「それにお店の助けにもなるんでしょ? チョコたちに任せて」
二人とも話を聞いていたのか、既にやる気十分だった。
ここまで二人に言わせたのだ、それなら応えなくては。
「ああ、二人ともありがとう。それならサフィア。その勝負、受けるよ」
そう返事をしたが、サフィアは目を丸くしていた。
「……言っておくが、決闘はわたしとあなたの一対一だぞ?」
「分かってるよ、ちゃんと戦うときは一対一だ」
この二人は協力してくれると言っても、あくまで武器の【精霊剣】としてだ。
サフィアは「どういうことだ?」と言いたげな様子だったが、ひとまずその場は決闘場へと移動する運びとなった。
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