プロローグ 不遇スキル【武器職人】
俺ことラルドは、冒険者を目指していた。
と言うのも昔自分が幼かった頃、冒険者に助けられたことがあるからだ。
故郷の街を襲った魔物の群れに家も家族も奪われた俺は、その時魔物に食われるところだった。
しかしすんでのところでとある冒険者パーティーに救われ……命を繋いだ。
それから俺もいつか立派な冒険者になって誰かを救うのだと、街の復興を手伝いながら己を鍛え上げてきた。
そして十五歳になった際に神殿で受けられる成人の儀で、冒険に役立つスキルを授かることを夢見てきた。
……けれど。
「ラルドさん、あなたが天に住まわれる神々から授けられたスキルは【武器職人】になります」
「……えっ?」
現実は、あまりにも非情だった。
「【武器職人】って、後方支援スキルでもないあの……!?」
俺が夢にみてきたのは、剣の腕が上がる【剣士】系スキルのような前衛職スキル。
もしくは【魔術師】や【錬金術師】のような後方支援系スキルでもまだやりようがあると思っていた。
しかし【武器職人】となればそうはいかない。
神さまから戦闘向きのスキルを授かった人たちと比べ、【武器職人】スキルの身では魔物を倒そうにも戦いにすらならないだろう。
何より、だ。
「授かるスキルって確か『それまでどんな生き方をしてきたか』に左右されるんですよね!? 俺、鍛治見習いすらやったことないのに……!」
これは一体何事なのかと、スキルを教えてくれた神殿の神官に聞く。
すると神官は、重々しく首を横に振った。
「こればかりは、わたしにもどういうことなのか分かりかねます。確かに神々から授かるスキルは、その人の生き様によって振り分けられると言われています。わたしもラルドさんのように毎日鍛錬を行なっている若人ならば、確実に戦闘向きのスキルが授けられると思っていました。けれど、こればかりはどうにも……」
「そ、そんな……」
一度授けられたスキルは、例外を除いては一生変更することができないとされている。
その上、冒険者たちをまとめる冒険者ギルドも無用な死人を出さないよう、前衛後衛を問わず戦闘系スキル持ちの人しか加入を認めていない。
つまり……俺が冒険者になるという夢は、完全に潰えたのだ。
「しかも、【武器職人】って新米冒険者にしか需要がないよな……」
この世界には数多くの古代遺跡、ダンジョンが存在する。
中から数多の魔物が現れるそれらの遺跡はしかし、中から多くの古代遺物……俗に言うアーティファクトが産出される。
そしてそれらのアーティファクトは通常の武器以上に魔物にダメージを与えられる傾向にあり、この時代の主力武器だ。
さらに低級のアーティファクトなら数多く出回っていることから、それらは新米を卒業する頃の冒険者の稼ぎがあれば簡単に購入できる。
……つまり、【武器職人】スキルは持っていたところで非常に限られた需要しかない、いわば不遇スキルなのだ。
あまり役に立たない、外れスキルの一つと言い換えることもできる。
「どうして、こうなったんだ……」
これまでやってきた冒険者になるための鍛錬は、一体何だったのか。
俺は冒険者になる夢が断たれた上、持っていても使うかすら怪しい不遇スキルを手にしたことで途方に暮れていた。