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第48話 聡明な王子

 突然押し掛けて来たメビウスを応接室に通して、落ち着くように茶を薦める。

 ティーカップを持つ手が怒りで震えているのが嫌というほどわかってしまう。


 何をそんなに怒っているのだろうか?


「ジュノス・ハードナーッ! 貴殿、少し卑怯ではないか!? 私に勝てないと恐れをなしたからと言って、精神攻撃を仕掛けるのは紳士にあるまじき行為だ! 恥を知れっ、恥をっ!!」


「はぃ?」


 メビウスの奴が何を言ってるのかさっぱりわからない。

 が、すぐに事情を説明されて納得した。


「つまり……俺を陥れるためにステラを誘拐したと?」


「……っ!? ゆ、誘拐とは人聞きが悪いぞジュノス殿下! ほ、保護していると言って欲しいものだ」


 何が保護だよ。勘違いの上に誘拐しといて、ステラがとんでもなくめんどくさいとわかった途端、俺に引き取りに来いとか……ふざけんじゃないよ!

 そんなことしたら余計に俺が懐かれるだけじゃないか!


「早く引き取りに来い! 聞いているのか!?」


「やだ!」


「なっ、なんと!? 今なんと言った!」


「やだって言ったんだよ!」


「何故だ!?」


「俺がステラを迎えに行ってしまえば、まるで俺がステラに会いたがっているみたいじゃないか。それは困る」


 そう、困るんだよ。

 これ以上ステラに付きまとわれたら非常にめんどくさい。

 それに、この件に関しては俺のバッドエンドとは何の関係もないじゃないか。

 俺の人生に関係がないのなら、極力省エネで生きたいのが俺の本心だ。よって、迎えには行きたくない。


「さ、最低だぞっ! ジュノス殿下!!」


「どっちがだよ! 人拐いしたのはメビウス王子達の方だろ?」


「だ・か・ら・人聞きが悪い言い方はよしてもらおうか! 私が拐ったのではないのだ!」


 話し合いは平行線のまま一時間ほど経ってしまった。

 メビウス王子も意外としぶとい人だな。

 よほどステラが嫌とみえる。

 普通にしていればとても可愛らしい子なのだけど、何分あの性格がな……。

 キャラ設定を恨むしかないよな。


「では、セルバンティーヌを引き渡して頂こう! 彼奴は元々我が国の民だ!」


 うわぁ、卑怯だな。

 ステラを引き取りに来なければセルバンティーヌのおっさんを要求してくるとか、ちょっと根性曲がってるんじゃないのか?

 しかもドヤ顔で参ったかと言いたげなのが……余計腹立たしな。


「なんだ……その顔は?」


「メビウス王子……ちょっと卑怯じゃないですか?」


「ななな、なにを言うか!? 私からレイィィラッを奪い取った貴殿にだけは言われとうないわっ!」


「おかわりをお淹れいたしますね」


 おおっ、あからさまに逆ギレするメビウス王子に、レベッカが透かさず紅茶のおかわりを薦めている。ナイスアシストだ!


「おお、これはすまんな」


 王子なのに随分と礼儀正しい奴だな。

 当初はリズベット先輩が差し向けてきた敵だから、どんなに厄介な奴かと警戒していたが……恐らくこいつはバカなんじゃないのか?

 キャラ設定がわからないから何とも言えないが、賢そうには見えない。


 と、なると、ちょっと試してみるか。


「メビウス王子」


「なんだっ!」


「ひょっとしてメビウス王子はリズベット先輩に騙されているんじゃないですか?」


「は? 私がリズベットに騙されているだと!? 馬鹿馬鹿しい!」


「なら別にいいんですがね……ねっ!」


「……ぅうっ!?」


 やはりメビウス王子はバカっぽいな。こんな簡単な引っかけにソワソワしている。この場には俺とレベッカしかいないというのに、周囲を気にしながらわざとらしく咳払いなんかしちゃって……可愛い奴だな。


「その……なんだ。話くらいなら聞いてやらんでもない。………リズベットが私を騙しているとはどういうことかなジュノスでんんんかぁぁあっ!」


 メビウス王子は声の音量調節機能がバカになっているんじゃないのか? 目の前でそんなにばかでかい声で言わなくたって聞こえているよ。


「知ってましたか?」


「何をだ?」


「セルバンティーヌに喰魔植物のことを吹き込んだのがリズベット先輩だということを」


「ん? どういうことだ?」


 おっ、食いついてきた。

 これはいけるかも知れないぞ。


「リズベット先輩はレヴァリューツィヤ国を陥れるために、あえて喰魔植物のことをセルバンティーヌさんに教え、レヴァリューツィヤ国がそこに多額の資金を使うように仕組んでいたんですよ。その上で、俺にアメストリアを救うように提案してきたんです」


「何故……リズベットがそのようなことをする!」


「考えてもみてくださいよ。あの人の婚約者はユリウスです。レヴァリューツィヤ国の誇り高き第一王子と、俺をぶつけることで、自らの婚約者であるユリウスが有利になるように仕組んだんですよ。いやー俺は聡明なユリウス王子と違うので、まんまとリズベット先輩に一杯喰わされましたよ。あっ、もちろん聡明なメビウス王子は気づいていたと思うのですが」


「とと、当然だっ! き、気づいた上であえて引っ掛かっている振りをしているにすぎん! 相手の……そう! 相手の狙いを探るためにな!」


「さすがです!」


 メビウス王子チョロ過ぎるよ。

 そんなんだからリズベット先輩にもいいように使われちゃうんだよ。可愛そうな人だな。


「では、我々でリズベット先輩に一泡吹かせませんか?」


「ちょっと待て! 貴殿は私からレイィィラッを奪ったことを忘れているのではないか? 私と貴殿も敵なのだ!」


「確かにそうですね。でも、今はリズベット先輩を失脚させる方が先だと思いませんか? 例えばメビウス王子とレイラが結ばれたとしても、必ずリズベット先輩が邪魔をしてくるはずです。そうなれば、メビウス王子とレイラが結ばれなくなってしまいますよ?」


「それは困るっ! しかし、リズベットの奴をどうやって失脚させるというのだ?」


「そんなの簡単ですよ! ユリウスを失脚させてやれば、自ずとリズベット先輩も共倒れしますから!」


「貴殿は実の弟を……悪魔かっ!」


 確かにユリウスは俺の大切な弟だ。

 だからこそ、リズベット先輩から守ってやらねばならない。

 例えそれでユリウスから嫌われたとしても、弟の命には代えられないからな。


「しかし……我が国を陥れたリズベットを許せないと思っていたのは私も同じだ」


 嘘つけ! お前知らなかっただろ!!

 それに、半分は俺が適当に考えた嘘だからな。

 って……まぁいいか。


「それでどうするのだ? どうやってユリウスを失脚させる?」


「リズベット先輩がしたことをそのまましてあげるんですよ!」


「リズベットがしたこと?」


「ええ、人の噂というのが如何に恐ろしいか、リズベット先輩には身を持って体験していただくとしましょう! ステラの件もすぐに終わるので、もうしばらく保護をお願いしますね」


 リズベット先輩……あなたが差し向けた商業連合とメビウス王子、この二枚のカードを逆に使わせて頂きます。



 目には目を、歯には歯を……噂には噂をだっ!

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3月1日昼12時に投稿開始し!
一話だけでも……!
是非お読みください!
貧乏国家のクズ王子~国家建て直しのため魔王軍に入った俺が天才と呼ばれ始める。
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