第34話 二章――プロローグ
大変お待たせ致しました!
皆様のお陰で連載再開です!
本日はプロローグを含めた二話掲載です!
当初は作者の都合上、来月10月頃の再開を予定していたのですが、なんとか一日でも早くと思いフライングスタートです!
できる限り毎日投稿を心がけますので、引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m
リグテリア帝国の西北部に位置するパーシモン伯爵領。
その屋敷でテーブルを挟んで向かい合う男女。
一人はこの屋敷の当主、ヒスト・パーシモン伯爵である。
緊張から震える彼の目前には、豊満なバストをひけらかす女性の姿。
大胆に胸元が開いたドレスからは、内面から溢れる自信が窺える。
祈るように組み合わせた指先をカタカタと鳴らすパーシモン伯爵に対し、彼女は手に持った扇をパシリ、パシリと鳴らして、笑みを深くする。
「さぁ、約束通りリグテリア帝国と……ジュノス・ハードナーについての情報を……」
「は、はぁ……」
流れ落ちる汗を拭うパーシモン伯爵とは違い、扇をパシリ、パシリと急かすように鳴らす無言の圧力。
蛇のような目に促されるまま、彼は観念したといった様子で、自国の情報とジュノス・ハードナーに関する情報を吐き出した。
売国者と変わり果てた自分自身に負い目を感じていたのか、パーシモン伯爵の瞳からは生気の色が失われる。
何故このようなことに……。巡る言葉は後悔ではない。
ないのだが、後ろめたい気持ちが追い立ててくる。
パーシモン伯爵領は開墾が行われ、農地が広がり豊富な収穫が約束されているはずだった。
しかし、何故かここ数年、収穫量が落ち込んでいる。
何故か、休ませているはずの土地が、痩せてきている。
そこに来て天候不良まで起きてしまった。
それでも貴族としての体面を保つため、帝国に納める税のため、例年通り農地を視察して広さに応じて税収を取り続けた。
そしてついに、その日は来た。
農民たちは我慢の限界を迎え、暴動を起こしたのだ。
ただの暴動ならば良かった。帝国内ではよくある話なのだから。
だが、今回は違う。
全領民が不当な税収に怒り、ヒスト・パーシモン伯爵から、農地視察10万日の延期などというものを勝ち取ってしまうまでは。
帝国に税を納められなくなってしまったパーシモン伯爵は頭を抱えた。
そんな折り、一人娘のノエルが学友を連れ、ポースターから帰省する。
ノエルが連れてきたのは魔女……ではなく、公爵令嬢。
リズベット・ドルチェ・ウルドマン。
彼女はどこからか、パーシモン家が窮地だと聞きつけていた。
リズベットはノエルの父、ヒスト・パーシモン伯爵に打開策を提案する。
それは商業連合、マルセスミスに借金の申し出を懇願するというもの。
借金の申し入れを行う貴族の家は、何れも事業に失敗していたり、身の丈に合わない行いで首が回らなくなった者ばかり。
上位家や主家への無心もできず、かといって平民の商う貸金屋に行くのはプライドが許さず、家財を売るにも限界がある。
そこで、リズベットは商業連合への借金の申し入れを提案したのだ。
しかし、それが悪夢の始まりだった。
借金の申し入れは難なく受け入れられたのだが、それには条件があった。
帝国の情報とジュノス・ハードナーに関する情報を、商業連合に提供するという条件が。
このようなことが帝国に知られれば、パーシモン伯爵家は一巻の終わりである。
パーシモン家は更なる窮地に立たされていた。
すべては魔女の誘惑に乗ってしまったがため。最悪、死罪も免れないであろう。
運命の歯車は破滅の足音となって、刻一刻と動き続ける。
忍び寄る足音に怯えるヒスト・パーシモンと、その娘ノエル。
だが、これは単なる奇跡への序章に過ぎない。
農民も貴族も、ジュノス・ハードナーがこれから起こす奇跡によって、豊かな土壌を築くことになっていくのだから。
これは歴史的賢王となる、ジュノス・ハードナーの行った若き日の偉業、その伝説の記録である。




