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第5話:新米冒険者、第二の人生を始める

「や、やったの……?」


「ああ、もう大丈夫だ」


「し、信じられないよ。……こんなに強い魔物を一人で……?」


「ああ」


 実を言えば、どうして俺が急にこれだけの力を得られたのかわからない。だけど、一つ言えるのはミリアとシロナを守りたいという思いが、俺を強くした――そんな気がする。


「シオンの左目……赤く光ってるわ。……もしかしてそれで眼帯を?」


「え? 赤い?」


 俺の瞳は両眼とも黒かったはずだ。左眼に関しては視力が無いだけで、見た目は右眼と変わらない。

 そもそも、左眼が見えること自体何かがおかしい。

 その刹那、近くの茂みがわさわさと震えた。人影がにゅっと出てくる。


「シ、シオン……へへ、やるじゃねえか!」


「……レイジ」


「いやーまさかシオンがこれを倒しちまうとはなぁ。さて、報酬の分配をどうするか決めとかねえか?」


「君、もしかして分け前貰おうなんて思ってるんじゃないよね?」


 ミリアが睨みを利かせた。レイジは動じることなく、ぬけぬけと言葉を続ける。


「お、俺も部外者ってわけじゃねえしなぁ。命張ったんだからよ!」


「あなたのパーティのせいでこんなことになったのよ。どういう意味かわかるわよね」


「そ、それについては謝る! この通りだ――」


 レイジはその場に跪き、額を地にこすりつける。こんなに情けないことをしてまで報酬が欲しいのか……。まるで俺たちが悪者みたいじゃないか。頭おかしいんじゃないか。


「分け前を渡すつもりはないよ。だって、レイジは一度も渡してくれなかったじゃないか。命が助かっただけでもありがたいと思うべきだ」


「こ、このクソガキ……下手に出れば図に乗りやがって……」


 何と言われようとも、応じるつもりはない。仲間が三人死んでいるというのに、弔うどころか悲しんですらいない。こいつはこういうやつなんだ。


「でも、これで全部終わったってことで良いのよね?」


「予定は狂ったけどケルベロスは倒したし、クエストに関しては一件落着……って、なんだ!? この魔力は」


 左眼が見えるようになったのとほぼ同時に、俺はかなり魔力に敏感になった。世界でも数人しか持っていないと言われる【魔力感知】のスキルが使えるようになったのかもしれない。魔力の大小や、その場所が理解できるのだ。


 この魔力の大きさは、さっきのケルベロスを遥かに超えている。

 その場所は――。


「ちょうど、この真上に、何かいる」


 俺が言った直後に、空を影が覆った。


「な、なにあれ!? ド、ドラゴン!?」


「赤鉄の翼竜……よね!? 何百年も前に倒されたはずじゃなかったの……」


「う、嘘だろおい……」


 驚いたのも束の間、巨体が地上に降りてくる。俺たち四人は散り散りになり、ドラゴンと距離を取る。


 ドオオオオオオンと大地を揺らして、ドラゴンが着陸した。

 重厚感のある銅色の翼が『赤鉄の翼竜』の特徴。その爪と翼には、いくつかの魔石がひっついていた。

 それを見て、ずっと謎だった大量の魔石の原因を理解した


「それで、魔石が転がってたってわけかよ……」


 ドラゴンは、通常の魔物とは違って他の魔物を襲う。かといって人間を襲わないというわけでもない。夜行性だから、夜の間に魔物を狩っていたのだろう。大量の魔石をばら撒いていたやつの正体は、こいつだったのだ。


 朝になって巣に帰ってみたら、人間が近くにいたので襲ってみようって感じか?


「お、おい……シオン、お前強いんだろ? あのドラゴンもサクッとやってくれよ。な、頼むよ」


 どの面下げて言っているのか、レイジが涙目で頼んできた。


「レイジは言ったよな『お前はここにいる面子なら誰にでもできることしかしていない』って。俺にできることはレイジもできるんだろ? じゃあやってみろよ」


 レイジは悔しそうに唇を噛み、


「くそおおおおおおおおおお!!!! やってやらあああああ!!!!」


 剣を取り、翼竜に斬りかかった。

 だが、翼竜の硬い羽根に傷をつけることすらできずに跳ね返される。翼竜は尻尾を振り、レイジを突き飛ばす。


 レイジの身体が宙に浮き、そこを鋭利な爪が一刺し――。ピクリとも動かなくなった。彼は決して弱いわけではない。零細パーティとはいえ、リーダーをやっていた男だ。それを一撃となると、強くなった俺でも手に負えないかもしれない。


 何か方法はないか――そう思って観察した。それからすぐにドラゴンの動きがあった。 唐突にペコリと頭を下げたのだった。


「……へ?」


 ドラゴンは口を開く。驚くべきことに、人間の言葉を発したのだった。


「賢者様の復活を心からお喜び申し上げます。私、ルビスは賢者様にお仕えするためにのみ存在しております。……どうか、お許しを」


「賢者……? 賢者ってなんだ?」


「あらゆる魔法に精通した、いわば魔法の神のような存在です。ご主人様の、その左眼の瞳がその証拠でございます」


「……この眼が?」


 シロナに赤く光っていると指摘された左眼。この眼に特別な力が宿っているから、急に強くなれた――そう考えると確かに辻褄は合う。


「で、でも都合が良すぎないか? なんで見えるようになってすぐに出てきたんだ?」


「数日前より復活の兆候があったのです。引き金となったのはおそらくそこの二人の少女によるものですが……」


「それで、俺に何をさせるつもりなんだ? ただ単に待ってたわけじゃないんだろ?」


「私は何もしません。賢者様にお仕えできればそれでいいのです」


「いや、でも正直ドラゴンを連れまわしてると村の中にすら入れないだろうし困るんだけど」


「先代賢者様も似たようなことを仰られていました。問題ありません。姿は変えられますから」


 それからすぐにルビスの身体を白い煙が覆った。煙が晴れると、そこには――。


「お、女の子……!?」


「女の子だね」


「女の子にしか見えないわ」


「この姿ならご主人様に迷惑はかけません。いかがでしょう?」


 うん、確かにこれなら村には問題なく入れるし、特に困ることもないか。ドラゴンが仲間なんて心強いし……。

 一つだけ心配事があるとすれば、ルビスの姿は見目麗しい少女だということだ。女性冒険者から嫉妬の対象となり厄介ごとに巻き込まれかねないほどの美貌。


 赤毛に赤い瞳と、ドラゴンの時の特徴を残しつつ、綺麗な顔立ちをしている。

 ミリアとシロナのおかげで美女耐性ができた俺でも、ちょっとドキドキしてしまうくらいだ。


「まあ、それなら」


「ああ、良かったです……! ありがとうございます、ご主人様!」


「それと、ご主人様じゃなくて、俺の名前はシオンな」


「わかりました。では、シオン様とお呼びしますね」


 様付けもしなくていいんだけど……まあ、今はまだいいか。


「じゃあ、ケルベロスをストレージに入れて、報告を済ませるか。……あと、レイジーファミリーの全滅も伝えておかないとな」


 かつての仲間がどうなっても、何も思わないと思っていた。だが、不思議と少しだけ、残念だと思ってしまう。……レイジはともかく、他の三人にはまだ更生の余地はあったのかもしれない。今となってはもうどうしようもないのだが。


 複雑な思いを抱えながら、俺たちは転移結晶を使い、ユニオール村に帰還した。


 ◇


 村に帰還してからすぐに行くべき場所は決まっている。冒険者ギルドだ。そこで全員が集まり、クエストの完了を報告する。


 ストレージに収納した赤毛のケルベロスを売却し、その売却益を三人で分けてパーティは解散だ。短かったけど、密度は濃かったと思う。

 ミリアとシロナ。この二人に出会えたことで、俺は何段階も成長できたと思う。別れるのはやっぱり寂しい。……でも、これは仕方のないことなんだ。


 冒険者ギルドの前では、ミリア、シロナ、ルビスの三人が既に集まっていた。俺が一番遠くの地点に帰還したらしく、待たせる形になってしまった。


「お待たせ、じゃあ、行こうか」


 冒険者ギルドの中に入り、受付嬢に事の顛末を報告する。レイジーファミリーとクエストが被り、誤ってケルベロスを凶暴化させてしまったことで大変なことになってしまったことも含めて、ほとんど全てを話した。一つだけ偽ったこともある。ルビスの正体を隠しておくため、レイジの死亡はケルベロスによるものとしておいた。


「レイジーファミリーが全滅してしまったことは残念ですが……それでも素晴らしい戦果です。別の場所で赤毛のケルベロスが凶暴化してしまった際は、百人規模の討伐隊が組まれました。それを、四人の犠牲を出したとはいえ、たったの七人で成し遂げてしまうとは……」


 赤毛のケルベロスは本当に強かった。ミリアとシロナの連携で瀕死に追い込んだということだけでも本来なら常識を遥かに超えている。受付嬢の話を聞いていると、だんだんと冷静になり、凄いことをしたのだという実感が湧いてきた。


「では、クエスト報酬が十万リルで、買取金額が魔石と合わせて百四十万リルになります。本当に、クエストお疲れ様でした!」


 報酬を受け取り、ギルドに併設されている酒場のテーブル席に四人で腰かける。


「じゃあ、報酬を渡していくよ。ミリア、シロナ。本当にお疲れ様」


 きっちり二人に五十万リルずつを渡して、俺も五十万リルを受け取る。命懸けで手に入れた五十万リル。……昨日のあぶく銭とは重みが違った。


 それから、お別れを伝えなければならない。


「あ、えっと……そのだな」


 言わなくちゃいけないのに、この二人と別れたくないという思いがこみ上げてくる。これからもずっと一緒に冒険したい……なんて俺の我儘でしかないのに。

 さっさとパーティを解消しないといけないのに。


「どうしたの、シオン? あ、お腹空いてる?」


「いや、そうじゃなくてさ……」


「顔色悪いわよ? シオン」


 ああ、これだから別れたくないんだよ……。

 このままずっと一緒にパーティを組みたい、なんて言ったら絶対困惑するだろうな。迷惑でしかないのはわかってる。だけど、今日くらい自分に素直になって、我儘を突き通したって、誰も文句言わないはずだ。なら――。


「あ、あのさ。これは俺の勝手な思いで、二人はぜんぜん拒んでいいんだ。だから、話させてほしい。お、俺はさ……今回限りじゃなくて、これからもずっと、ミリアとシロナ……二人とパーティを組んで冒険したいんだ。……それだけ」


 ミリアとシロナの二人は、俺の宣言を聞いて唖然としていた。ぽかーんと硬直し、二人は顔を突き合わせる。


「あ、そっか……そう言えばそんな感じだったよね」


「昔からの仲間だと思ってたわ!」


 実を言うと、俺もそんな感覚になっていた。だから、別れるのが寂しいと思ってしまったのかもしれない。


「もう今更解散しなくてもいいんじゃない?」


「シオンさえ良ければ私は引き入れたいくらいよ」


「じゃあ正式にシオンが入るってことで!」


「そうね、ソロだしちょうど良かったわ」


「え……え?」


 話がトントン拍子で進んでいく。


「本当に良いのか?」


「断る理由がないよ? ほら、シオンが来てくれたらルビスちゃんもセットだし、頼りになりそうだし!」


「今日みたいに三人制のクエストを受けられるっていうメリットもあるし、シ、シオンはダークエルフでも差別しないし……」


「そ、そっか……ありがとうな」


 まさか、受け入れてもらえるとは思わなかった。今まで俺の我儘が通ったことなんて、一度もなかったから。生まれて初めて感じる喜びだった。


「じゃあ今日はお金も入ったことだし、シオンの歓迎会やる?」


「あ、それ良いわね! ルビスちゃんの歓迎会もセットでね」


「あ、そうだった……ルビスちゃんごめんね」


「良いんですよ、私はシオン様の付き人みたいな者ですから」


 人化したルビスは、やっぱり美人さんだ。

 だから、笑うと何倍にも増して可愛い。


 これからこの四人で色々なところを冒険するのか。

 それにしても、なかなか珍しいパーティ構成なんだよな。


 エルフにダークエルフ、ドラゴンなんて。しかも全員美少女。

 俺だって、昨日までとは違う。この不思議な左眼の力【賢者】を手に入れた。これさえあれば、みんなを守れる。

 何がどうなるかわからないけど、何が起こってもなんとかなりそうだ。


 ボンヤリとこれから先のことを考えながら眺める新しい仲間の姿は、それはそれは輝いて見えた。


 ――こうして、俺の第二の人生が始まった。

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