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第2話:新米冒険者、がっかりする

 ◇


 転移完了。

 そろそろミリアとシロナも村に到着した頃だろう。転移結晶での帰還ポイントは、基本的に村のどこかにランダムで決まる。いくつか帰還ポイントはあるようだが、民家の中などには転移しない。


 集まった魔石は合計で二百個ほど。一個千リルで売れるとしたら二十万リル。十分すぎる金額だ。

 ……というか、集まりすぎな気がする。朝一番に出たからといってこれだけの魔石が集まるのは、いくらなんでも少し不自然だ。


 昨日の夜に何か大規模な戦いがあったのか? そんな話は聞いたことが無いが……。それに、よくよく考えればいくらブラック・ウルフのような強い魔物がいたとしても、今日は魔物が少なすぎた。


 考えれば考えるほど分からないが、たくさんの魔石が集まったのは事実。良しとしておこう。


 冒険者ギルドは買取も行っている。クエスト報告と一緒に、買取してもらって、たまったお金で装備と消耗品を揃える。――当初の目標は達成できそうだ。


 ◇


「クエストが終わったからその報告と、魔石の買取をしてもらいたいんだ」


「お疲れ様です。では、ルーネの花十本の納品と、買取希望の魔石をここにお願いします」


 受付嬢の指示通りルーネの花を十本、カウンターの上に横一列で並べた。しかし魔石の方はどうしたものか。


「あの、魔石の数が多くてここに並べられないんですけど、どうすれば?」


 受付嬢は怪訝な顔をして、


「えっと……ちなみに数はいくつですか?」


「俺が数えた限りでは二百個でした。ちょっと数は前後しちゃうかもしれないんですけど」


「に、二百!? ど、どこでそれだけの数の魔石を……?」


「さっきルーネの花を取りに行ったついでに落ちている魔石をちょこっと拾っただけなんですけど。なぜかいっぱい落ちてて」


「は、はぁ……。わかりました、ではこちらで回収して金額を決めさせていただきますので、直接ギルドのストレージに転送をお願いします」


「わかりました」


 ストレージの転送は、かなりアナログなやり方だ。一旦俺のストレージから取り出した魔石をギルドのストレージに入れるという作業。冒険者ギルドの職員がもう一度取り出して鑑定するという流れだ。


 十分ほどで魔石の転送が終わると、鑑定までしばらく待っているように言われた。一時間で終わるらしいが、ずっと中で待っているのも退屈なので外に出ることにした。


 冒険者ギルドを出て、商業地区の方へ向かう。今は買えるだけのお金がないが、一時間後にはちょっとした小金持ちになれる。今の間に欲しい物リストを作っておくのだ。


 比較的通行人の少ない道を軽快に進んでいく。その途中で、少し離れた場所から聞きなれた声が聞こえてきた。俺が半年の間毎日聞いていた声。古い仲間たち――。

 俺は近くの路地裏に飛び入り、身を隠した。セーフ、見つかっていない。


「ったく、あいつまさか逃げるとはな!」


 この声は……レイジか。直接言われているわけでもないのに、自分の話をされているというだけで身体が震えてくる。


「リーダー、気にすることないっすよ。あいつポンコツでしたし」


「そうそう、あいつ最近ちょっと仕事できるようになったからって調子乗ってましたからね」


 カイルとギルスもそんな風に思っていたのか。……本当の意味で俺の居場所なんてなかったわけだ。

 カイルは俺が潰れそうになった時、何度も励ましてくれた。時にはレイジの悪口大会になった時もあった。

 ギルスは俺がヘマをしてレイジに怒られるたびに仲裁に入ってくれた。その後反省会をして、何がダメだったのか、どうすればいいのかを何度も教えてくれた。


 俺が昨日までパーティを続けられたのは、この二人のおかげだった。仲間だと思っていた。だけど……これが本心だったんだな。

 レイジに気を使って悪口を言っているわけじゃない。もしそうなら、心から楽しそうな声が出るわけないじゃないか。


「ふっ、確かにお前たちの言う通りだな。よーし、じゃあ今からギルドに行って募集をかけるぞ! 人生終わった新米がこぞって集まるだろうな! ガハハハハッ!」


「もしシオンが募集来たらどうするのかしら?」


「もし来たら喜んで迎えてやるさ。今度は逃げられないように奴隷契約を条件にしてやればいい」


「まあっ!」


 それはそれは愉快そうな様子だった。

 レイジがそういうやつだってことはもう知っているはずなのに、俺の中に残っていた何かが崩れていく感覚があった。

 まだ俺は何か期待してたのか。レイジが今までのことを謝罪して、もう一度パーティに入ってくれと頭を下げるとか――。

 そんなことあるわけがないのに。


 四人が去った後、予定通り商業地区の装備屋をいくつか周り、欲しい装備をピックアップしてから店を後にした。


 ◇


「さすがにもう中にはいないよな……」


 不審者さながらの動きで冒険者ギルドの周りをきょろきょろと見まわして、四人がいないことを確認してからそっと扉を開いた。

 中にはいつもの受付嬢と、知らない冒険者数人がクエストを物色しているだけ。安堵の息をもらした。


「あっ、シオンさん!」


 さっきの受付嬢が俺を見つけるなり、片手を上げて呼びかける。


「そろそろ鑑定終わった頃ですか?」


「はい! 報酬の方も準備できてますよ。シオンさん凄いですね。今回の報酬、全部で三十万リルでしたよ!」


「三十万!?」


「レアドロップもいくつか混じっていたのでこの金額になりました! これ、報酬です」

 三十万リルが入った麻袋はズシリとした重みを感じた。三十万リルあればさっき見ていたものよりもワンランク上の装備を調えられる。これはラッキーだ。


「あの、それと……」


 受付嬢が苦虫を噛み潰したような顔で、付け加える。


「どうかしましたか?」


「レイジ様から伝言がありまして」


「リーダーから……今更何を言うんだろう」


「差し支えなければ読み上げさせていただきますが、いかがしましょうか」


 冒険者ギルドでは、伝言を依頼することができる。依頼の費用は無料で、相手の冒険者が訪れたタイミングで伝えられる。

 俺は一瞬迷ったが、「お願いします」と答えた。


「シオン、我々パーティとしてはお前の不義理を決して許すことは出来ぬ。規則に伴い、脱退費用十万リルを要求する。お前が自らの過ちを認め、誠意を見せれば今回ばかりは許してやる。もしこれを無視すれば、お前の冒険者生活は未来永劫陽の当らぬものとなるだろう――伝言はここまでです……」


「……ありがとう」


 つまり、金を払うか、謝罪してパーティに尽くせということだった。最後の言葉は脅しとしか思えない。レイジ程度のパーティリーダーが俺の冒険者生活をどうにかできるほどの力を持っているわけがない。――ただのハッタリだ。


「あまり受付嬢如きが口を挟むのは憚られるのですが……パーティ脱退を理由とした金銭要求に従う必要は微塵もありません。ギルドでの活動は我々が責任を持ってお守りしますので……」


「ありがとう、その気持ちが嬉しいよ。この伝言は無視することにする」


「そうですか……。では、今日はお疲れ様でした」


 受付嬢はほっとしたようで肩の力が抜け、自然な笑顔でお辞儀した。

 俺はズッシリとした重さのある袋を片手に、冒険者ギルドを出て、その足で目当ての装備を買いに行くことにした。


 鎧に関してはそれほど高価な物は買わなかった。紙一重の差で生死を分けることはあるが、防具と言うのはそれがどれだけ良い物であっても劇的な効果を発揮するものではない。そこにコストをかけるよりも、できるだけ良い武器を揃えるべきなのだ。


 冒険者学校時代は剣と魔法のどちらもそれなりに使うことができたが、どちらに特化しているというわけではなく、それなりの使い手だった。


 『どちらかというと剣が得意』だということで、卒業してもずっと剣を使っている。今度も、使い慣れた剣を選んだ。

 ありがたいことに、今日の報酬がかなりの高額だったので、ずっと欲しかったミスリル製の量産剣――ミスリル・ソードを手に入れることができた。


 重厚な蒼色が煌めくミスリル・ソードは別名『蒼剣』とも呼ばれ、量産武器にしては人気が高い。


 少なくなってしまった残金を見て苦笑しつつ、また稼げばいいやと思って今日のところは宿に泊まることにした。

 冒険者用の安宿だが、今日だけはいつもよりワンランク上の部屋。ふかふかのベッドで横になり、今日一日の疲れを忘れるように深い眠りに入った――。

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