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第22話:新米冒険者、決着する

 ジェイドと俺の剣が拮抗し、後ろがお留守になっているところを、ジークが大剣を振り下ろした。

 卑怯? それは違う。

 冒険者であれ、騎士団であれ、常に背後からの攻撃には気を付けるべきだし、仮に気づいたとしても、力が伴わなければ何の意味もない。


 これが実戦なら、命を落としてしまう場面だ。

 実戦での敗北は死を意味する。その意味を、ジェイドは知っているはずだ。

 振り下ろされた大剣の刃がジェイドの背中に当たり、大ダメージを与える――はずだった。


「……えっ!?」


 だが、鋼に跳ね返されたかのような金属音が跳ね返っただけで、ジェイドには何のダメージも与えていなかった。

 ジークは怯まず、連続で何度も大剣を振り続ける。そのたびに金属音が鳴り響くだけで、ジェイドの顔にも焦りは見られない。

 ジェイドの身体に金属製の何かが仕込まれているわけではない。ごく普通のローブに金属の板かなにかを挟めば、くっきりと形に出るはずだ。それがない。

 ……そもそも、ジークの攻撃は金属の薄い板程度で防げるほど弱くはないのだ。

 だとしたら、何か魔力的な何かがあるのかもしれない。俺は、左眼を集中してジェイドの身体をくまなく観察した。


 …………っ! なるほどな……。


「一旦作戦中止だ。下がってくれ!」


 言いながら、俺は押され気味の態勢で後ろに跳躍し、ジェイドと距離を取る。そのタイミングで腕にジェイドの剣がかすり、強烈な痛みが襲った。

 ……だが、思ったより攻撃力は強くない。ギリギリ耐えられるくらいの痛みだった。


 そのまま広いバトルゾーンを駆け抜けながら、とある作戦のために少しずつジークのもとに近づいた。

 俺の接近に気づいたジークが、気を利かせて俺との距離を詰めてくれる。


「ジーク、手ごたえはどうだった?」


「……それが、まるで鉄の塊を叩きつけているようなイメージで。剣が刃こぼれするかと思いましたよ」


「やっぱりそんな感じか。……ジェイドの硬さの秘密は、もう分かってる」


「さすがはシオン君と言うべきでしょうか」


「言わなくていいから、よく聞いてくれ。ジェイドは、攻撃された箇所だけにピンポイントで魔力を集めて硬化してるんだ。つまり、硬化していない部分は普通の皮膚と同じくらい柔らかい」


「では、硬化している場所さえわかれば……」


「まあ、最後まで話を聞いてくれ。そう簡単な話じゃない。多分、硬化のタイミングはジェイドも把握していない。長年の鍛錬で、攻撃される直前に勝手に硬くなってるんだ」


「だとすれば、シロナさんの範囲魔法なら」


「それも無理だ。動きが速くて避けられるし、広すぎると下手すりゃ俺たちが巻き添えを食らっちまう」


「では……もう打つ手はないんでしょうか」


 ジークでさえも、弱音を吐いてしまうという状況。まあ、普通ならもうどうしようもないだろうな。

 だが、無策で不安にさせたわけではない。


「そこで、今からジークに一つ頼みたいことがある」


「なんでしょう……?」


「それは…………」


 俺はとある作戦をジークに伝えた。


「そんなことでいいんですか……?」


「ああ、多分それでいける」


「わかりました。シオン君に任せます」


 ジークの承諾を取ることに成功した俺は、ジェイドの前に躍り出た。


「よし、みんな聞いてくれ――! 今から一瞬で片づける。だから、俺を援護してくれ!」


 言ってすぐに、俺は両手に剣を握りしめた。

 右手には、俺の相棒であるミスリル・ソード。そして、左手にはジークから借り受けたオリハルコン・ロングソードだ。

 そのままでは大きすぎるので、縮小魔法を使って調整してある。一時的に物質を小さくできる縮小魔法は、俺が使える魔法の中では最高位だ。


 剣と言うのは、普通は一本しか扱うことはできない。二刀流の技術はどうしても一本ずつ斬るよりも弱ってしまうのだ。

 だが、俺はこっちの方がしっくりと感じていた。そもそもミスリル・ソード自体両手で使うのが基本なのに、俺はこの眼を手に入れてから、ずっと右手でしか握っていない。


 両手で剣を振るという発想になったのは、それが大きかった。

 さすがに二本を持つと重量的に筋肉がややヒリヒリするのだが、そこは我慢。


「……二刀流とはな」


 ジェイドも珍妙なものを見たかのような反応になる。

 俺はふざけてなどいない。これが、唯一の活路だと思ったから、二刀流を使っているというだけのことだ。


 俺が踏み込むと、ジェイドも応戦し、鍔迫り合いになる。


 キンキンキンキンキンキンキンキン…………。


 一本では押され気味だった剣戟も、二本なら対応できている。

 そこに、ミリアとシロナの遠距離攻撃が飛んできた。

 一瞬怯んだジェイルの隙をつき、俺は剣を同時に降り、ジェイドの身体を斬る!


 二か所へ魔力が分散し、さっきよりも弱い硬化。あとは、全力で力を込めるだけだ。

 全力を持って深く、強く、そして鋭く切り込んだ。

 俺の攻撃力がジェイドの防御力を上回り、剣がジェイドを貫き、切り裂いた。


「こ、こんな……ばかな……!」


 ジェイドは呻き声を上げながら、その場に崩れ落ちた。

 精神力喪失による戦闘不能――かなりの苦労があったが、なんとか勝つことができた。

 

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