第21話:新米冒険者、騎士団と戦う
戦場――バトルゾーンへと入場し、騎士団の五人と対峙する。
控室で集まっているときに魔力感知でそれぞれの魔力の強さは確かめてある。
騎士団の構成は、男が三人に、女が二人。
リーダーのジェイドが抜きんでて強い以外は、俺たちでどうにかできない強さではない。わっと歓声が起こり、それにジェイドが手を振って反応する。
この試合では、俺たちは完全にアウェイのようだった。おそらく、ここにいる観客の多くはジェイド率いる騎士団が勝つことを期待している。
まあ、だからといって負けてやるつもりはないさ。
作戦は立てた。うまくハマれば、勝てない相手ではない。
「狙いは、左端の女。それと右端の男だ。俺とジークで右をやる」
ボソボソと俺が告げると、四人が無言で頷く。
少し歓声が落ち着いたところで、試合開始となった。
開始の合図と同時に、シロナが煙幕魔法を地面に放ち、バトルゾーン全体に黒い煙が立ち込める。観客席は流れ弾が飛んでこないように対策がとられており、そちらに煙は流れ出ないないため、換気口から煙が出ていく数分はまったく周りが見えないという状況を作り出した。
対人戦において、煙幕魔法による攪乱は別に珍しいというわけではない。窮地に陥った時には起死回生の一手として時間稼ぎをすることは有効に働く。
だが、開幕からいきなりぶち込むことは普通はあり得ない。何の得もないからだ。敵の場所を視覚で判断する以上は、自分も攻撃をすることができない。
それでもセオリーを破った。
なぜなら、俺は世界でも数少ない魔力感知の持ち主だからだ。
左眼の瞳には、魔力を宿した五人の人間の姿がハッキリと映っている。
ちなみに、試合が始まる直前にボソボソと言った言葉はフェイクだ。騎士団なら、唇の動きから言葉を推測するだろう。そこを逆手に取った。
まさか俺が一人で敵陣に突っ込んでくるとは夢にも思っていないだろうな。
俺は駆け出し、まずは一番左の女を背中から剣で一閃。
俺だけが見えて、相手からは絶対に見られない。たとえ視覚以外の四感を総動員して俺の場所を突き止めようとしても、必ず動きには迷いが生まれる。
そんな敵を蹂躙するのは簡単だった。
止まらず隣の男を瞬殺する。
真ん中に立っているジェイドはまだ無視だ。たとえ目が見えない状況であっても、単独での近距離戦は避けたい。
右翼に移り、男と女を同様に瞬殺した。
その頃になると、大分煙幕は薄くなってきていた。
すかさず後退する。
煙が晴れた時、観客席は驚愕とも落胆ともつかない声が覆った。
「よし……まずは成功」
バトルゾーンの中には、精神力を刈り取られた四人がその場に倒れている姿があった。
その全員が、騎士団側だ。
この作戦は、相手がそれほど実力の高くない騎士団だったから成功したようなものだ。騎士団は基本的に、村の中や、村近くのフィールドでの戦闘を想定している。
だから、煙幕がある程度の時間立ち込めるという経験をしたことがないのだ。
これが冒険者であれば、ダンジョン内でそういったケースが発生することを想定しているので、近づけば聴覚や嗅覚などの感覚をフル動員して応戦してくる。
相手が騎士団で良かった。そのおかげで、一気に四人を片付けることができた。
倒れた四人の仲間の姿を見て、ジェイドは唖然としていた。それから、腰に差したレイピアを抜いた。
「……なるほど、これからは煙幕の訓練もせねばならんようだな。侮っていたらしい」
だが、まだ戦意を喪失しましたという雰囲気ではない。
単独でも、自分が勝てると信じている。燃えるような闘志が瞳から伝わってくる。
騎士団と言うのは、組織よりも個人の力が重視されるという特徴がある。
数年という短いスパンで転勤があるのだから、冒険者パーティのような固い絆で繋がっているというわけではないのだ。
騎士団員は個人として評価され、時には誰かを蹴落としてでも出世する。仲間というよりは同僚。
まだ勝てる、と信じるのも無理はなかった。
「悪いけど、そっちは一人。こっちは五人だ。この試合、勝たせてもらうぞ」
「対人戦と言うのは数の勝負ではないということを教えてやろう。俺は一人でも負けん」
ジェイドが地面にレイピアを突き刺し、大量の魔力を流し込む。
その刹那、地面が盛り上がり、地割れが起こった。
猛スピードでジェイドが近づいてきて、ミリアに狙いを定める。
「……させるかよ!」
俺は強引に地割れをかいくぐりながら、駆け抜ける。
そして、ミリアにレイピアが近づいてきたところを剣で応戦。
カキンっと金属音が鳴り、拮抗する。
やや俺の方が押され気味か……。
「ミリアは後ろから援護を頼む」
「わ、わかった!」
ミリアが後ろに離れていく。俺はジリジリと後ろに押されながら、耐え続けた。
……よし、もうちょっと。
大剣を持ったジークがジェイドの後ろに回り込んだ。
これで、挟み撃ちの形になった。右サイドからはルビスが近づき、逃げ場を塞いでいる。
後ろには遠距離攻撃ができるミリアとシロナ。
作戦は予定通りに運んだ。……これで、勝てる!





