表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/31

第20話:新米冒険者、作戦を立てる

 EパーティとFパーティ、GパーティとHパーティの試合が決着してから、第二試合が行われる。その間は特にやることもなく控室に設けられた出場者用の席で残りのパーティの戦いぶりを見るくらいしかしていない。


 EとFのパーティは、前二試合と比べるとかなり白熱していた。白熱はしていたが、圧倒的な力のぶつかり合いというよりかは並みの冒険者が小競り合いをしているという感じで、面白みに欠ける――そんな試合だ。


 試合は長期化していた。もし戦うことになったとしても特別な対策はいらないので、これ以上見なくてもいいだろうと判断し、俺はぬっと立ち上がる。


「シオンどこか行くの?」


「やることもないし、水でも飲んで来ようと思っただけさ」


「私も行くー!」


「なんだ、ミリアも喉乾いてたのか。じゃ、一緒に行くか」


「ミリアが行くなら、私も行かないとね」


「では私も」


「僕もついていった方がいい感じですか?」


 ……水飲みにいくだけで全員一緒に来なくていいだろうよ……。トイレに行くって言ってるんじゃないだぞ?

 まあ、全員この試合には飽きていたということだろう。


「じゃあ、全員で行くか」


 俺たちは五人はその場を立ち、控室を出ていこうとする。


「アンタ、シオンっていうのか?」


 その時、騎士団の鎧を纏った男に声を掛けられた。見た目はただのおっさんだが、鋭い眼光がタダモノではないことを示している。

 確か、次に対戦するCパーティのリーダーだ。


「ああ、そうだが」


「さっきの試合、なかなかのもんだったじゃねえか。あの嬢ちゃんの短剣捌きは悪くねえ……ってより、かなり鋭かったが、それを完全に見切ってただろ?」


「まあな。眼だけは良いんだ」


 おっさんはニヤッと笑って、


「こりゃとんでもねえのが出て来たな。次の試合、楽しみにしてるぜ」


「俺も、あんたが強いことはわかるよ。よろしく頼む」


「ちなみに、俺の名前はジェイドだ。騎士団と冒険者――役目は違うが、似たようなもんだ。今回は俺たちが勝たせてもらうが、健闘しようじゃねえか」


「勝つのは俺たちだ。ま、健闘しようってのは同意だな」


「へっ、若者はそれくらい元気じゃねーとな。良い根性してんじゃねえか。じゃ、今度は試合でな」


 短いやりとりを終えた俺は、仲間に気を配る余裕もなくスタスタと部屋を出て、階段を下りたところにある給水エリアに移動した。


 水をガブガブと口に含んで、一気に飲み干す――。


「……がはあっ…………」


「だ、大丈夫!?」


 ミリアが心配そうに駆け寄ってくる。


「大丈夫……ちょっと緊張して喉が渇いてたんだ」


 あのジェイドという男から滲み出るオーラは凄まじかった。俺のような新米冒険者では決して知らないような修羅場を潜り抜けてきたのだろう。侮られないようにと対応したが、ちょっと無理があった。


「あのジェイドっておっさん、何者なんだ……? 騎士団の連中ってのはみんなあんなのか?」


「ジェイドと言えば……去年まで王都の騎士団長をしていたという話を聞いたことがあります。定年で王都を退いてからも、地元の騎士団で活動していると……それがこの村だとは知りませんでしたが」


「王都の騎士団長……なるほどな。それなら納得だ。……というか、こんな村にこれだけの観客が集まるってのはそういうことなんだろうな」


 エリートである騎士団にも序列があり、新米騎士団員はまず地方の村を任され、結果を出すことでより大きな村へと移動する。

 王都の騎士団員は、国の中央を守るというだけあって、その中でも選ばれし者だけが働ける場所なのだ。


 そこの騎士団長ともなれば、この国の騎士団員で最強と言っても過言ではない。……正直なところ、俺の見立て以上の実力者だ。


「王都の騎士団って……そんなの勝てるのかしら?」


「戦う以上は、負けるつもりはないよ」


「で、でもめちゃくちゃ強いんだよね!?」


「シオン様なら負けるはずがありません!」


 ルビス……そう言ってくれるのはありがたいのだが、俺だっていつでも手探り状態だ。

「何か策が必要かもしれませんね」


「確かにな……策か」


 ここはユニオール村。王都とは程遠い辺境の村だ。ジェイド以外は、新人や並みの団員の集まりのはず。勝機はそこにあるってくらいか。


 騎士団の戦い方には多少のクセがある。組織の目的が村の治安維持であることから、魔物よりもやや犯罪者の処理に特化しているという節があるのだ。

 そのため、辺境の村の騎士団は少数精鋭……つまり個々が強い。冒険者学校の優秀な卒業生を採用しているのだから、強くて当たり前ではあるのだが、うまくやればこっちにとって有利な展開に持っていける。


「作戦ってほどじゃないけど、勝てるかもしれない可能性はある。聞いてくれ」


 俺は、たった今思いついた一つの可能性を説明した。


「うまくいくかなぁ?」


「なるほどね。……ジーク次第ってところかしら」


「シオン様は天才です!」


「僕のことなら大丈夫ですよ。皆さんの力は見極めさせてもらったつもりです。万が一僕の想定以上に跳ねてくれればさらに良いですし、そうでなくてもなんとかなります。……これなら、そうですね。ジェイドにも勝てるかもしれません」


 こうして作戦会議を終了した。

 控室に戻り、GパーティとHパーティの試合を観戦する。冒険者と騎士団の戦いだ。それなりに拮抗したもののGパーティ――冒険者パーティの勝利となった。


 それから十分後、俺たちとジェイド率いる騎士団の試合がやってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ