第18話:新米冒険者、再会する
ユニオール村に帰還し、ギルドにてクエストを清算したら、楽しい報酬の山分けタイムだ。
「みんなお疲れ様……だな。報酬は総額百万リル。まず、貢献割合をどうする?」
「ちょうど百匹だったんだから、一匹一パーセントの計算でいいと思うわ」
「んー、それだと俺の取り分がかなり多くなっちゃうんだが」
ゴーレム百匹の内訳はこうだ。
シオン……六十四
ミリア……五
シロナ……五
ルビス……十五
ジーク……十一匹
劇的に強くなったことが嬉しくて、調子に乗ってほとんどの敵を倒してしまった。ジークなんて俺に構わなければもっと数を増やせたのだ。
だから、六十四パーセントももらってしまうのはちょっと申し訳ない。
「僕は皆さんの力量と、動きを見ておきたかっただけですから、お気になさらず。お金はたくさん持ってますしね」
「冒険者は実力社会なんだからそれが当たり前だよ! シオンの取り分が多くなるなんて気にしないよ?」
「私はシオン様に全て差し上げても構わない気持ちです。どうかお気になさらず」
なんという平和な解決だ……。
みんながそう言っていることだし、俺だけ半分以上になるけど……シロナの案を採用するとしよう。豪華な食事をご馳走するなりして、それとなく還元するのも良いかもしれない。
「わかった。じゃあ全員一致ってことで俺が六十四万リル、ミリアが五万リル、シロナが五万リル、ルビスが十五万リル、ジークが十一万リルだ。今から分配するから、間違えてないかしっかり確認を頼む」
俺は百万リルを慣れない手つきで小分けにしていく。ミリア、シロナ、ルビス、ジークの順番に配ったら、残るが俺の取り分だ。
六十四万リル……一気に金持ちになったな。冒険者でなければこれだけの金額を稼ぐのはほぼ無理。村と村を移動する商人でさえ、一握りしかこの金額は稼げないだろう。
これだけの高額な報酬が用意されているのは、冒険者に対する危険手当の要素も大きい。いつ死ぬかもわからない不安定な職業――それなのに、夢を見る若者が絶えないのは、手っ取り早くお金が稼げるという側面が多分に働いているのだと思う。
「そういやジーク、さっきのゴーレム狩りでチームプレイらしいことはできてなかったと思うんだが、大丈夫か?」
「数時間やそこらでは同じことですよ。皆さんの技量や、戦い方、身体能力はしっかりこの眼に焼き付けたつもりです。もっとも、シオン君に関してはまだまだ秘めた力が眠っているのだと僕は睨んでますけどね」
後半は冗談っぽく軽い口調で言ったが、ジークの瞳はしっかりと俺の眼を見据えていた。
「……じゃあ、分配も終わったことだし、そろそろ宿に戻るか。明日の集合はここに朝七時でいいな?」
「場所はこの村の闘技場なので……そうですね、朝七時で間に合うと思います。では、また明日」
「おう」
ジークと別れた後、俺たち四人は宿に戻った。
明日は本気の戦いをすることになる。しっかりと休んで、万全な状態にしておかないとな。
そういえば、今日は無理に身体を捻ることが多かった。魔力経路を斬るという都合上、敵に合わせて俺が動く必要があった。一度のダメージはそうでもないのだが、何戦もしているとさすがに疲労が蓄積してくる。
「シオン今日も疲れたよね? 私が癒してあげるから隣で寝るよね?」
今日のベッド権を持つのはミリア。
ミリアは俺をベッドの方に腕を引っ張り、一緒に寝ようと言ってきた。
「ミリア……何してるのかしら?」
「ミリア、そういうのは良くないですよ」
シロナとルビスが睨みを利かせる。
「え……で、でも! シオン疲れた顔してるよ? 私だって好きでやってるわけじゃなくて、明日の大会に勝つためにだよ!」
ミリアのやつ、大分誤魔化すのがうまくなったんじゃないか?
一応筋は通っている。
二人は怪しげにミリアを見て、はぁと息をついた。
「確かに明日のためにも、シオンには回復してもらわないといけないわ。でも、くれぐれも変なことしないこと。いいわね?」
「しないよ! みんな同じ部屋で寝るんだよ?」
「ほ・ん・と・うに約束ですからね?」
「ハハ……ルビスちゃん怖いよ……わかってるわかってる」
……と、そんなこんなでなし崩し的に今日もミリアと夜を共にすることになった。感情面を抜きにしても、確かにミリアの癒しは凄い。
あれだけ疲労困憊していたのに、一晩でいつもより元気になってしまう――一度経験するとクセになりそうなくらいの力だ。
それにしても……いくら癒しの力があるとはいえ男と手を繋いで寝るなんて、嫌じゃないのだろうか?
俺としてはありがたい限りなのだが、負担になっているのなら考え物だよな。俺はミリアに甘えることしかできない。俺も何かできることがあればいいのに……。
そんなことを頭の中でぐるぐる考えていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
◇
翌朝七時。
冒険者ギルドの前に四人で向かうと、既にジークが先についていた。
「待たせたな」
「いえいえ、僕も今来たところですから」
それから軽い朝食を済ませて、ユニオール村北部にある決闘場へと向かう。
まだ朝早いというのに、北へ向かう人が多いのは、俺たちが参加するユニオール祭を見に行くのだろうか?
予想は的中し、広い決闘場の中に人が吸い込まれていった。
決闘場の外観は石造りのドーム型。中央が決闘場所になっていて、その周りを観客席が所狭しと並んでいる。
こんなに客席数が必要か? と思ったが、次々へと埋まっていく様子を見るに、これでも足りないくらいかもしれない。
この村の住民はもちろん、近くの村や遠く離れた村からもわざわざ見物に来ている客もいるらしい。大変な賑わいだった。
見知った冒険者の姿もちらほら見つけた。昨日ジークから話を聞くまでノーマークだったことが不思議なくらいである。
レイジは金儲けにしか興味がない人だったから、こういったイベントにはパーティメンバーを参加させなかった。最後の方は俺が精神的に参っていたし、他の冒険者から話を聞くこともなかった。
つくづく世界――どころか身の回りでさえ知らなかったのだということを痛感する。
「シオン君、受付はこっちですよ」
「ああ、すまない。今行く」
参加登録はギルドの職員がやっているので、顔パスで通る。逆に、他の村で活動中の冒険者が飛び入り参加しようとしても突っぱねられる。
試合は全部で三回。参加するのは全部で八パーティ。内六パーティが冒険者で、二パーティが騎士団という構成だ。
A~Hパーティに分かれて、トーナメント戦が始まる。
俺たちのパーティはA。
相手となるのはBパーティ。
さて、どんなやつが相手になるんだろうな?
「うひょっ! 俺の女じゃんっ!」
「あひゃひゃ! 久しぶりにはっけーん!」
「うへへ……俺の女もいるぞぉ?」
三人のキチガイに、大人しそうな男女が二人。どこかで見たようなやつだった。……忘れもしない、つい数日前にミリアとシロナとルビスにちょっかいをかけたバカ共だった