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第17話:新米冒険者、剣を教わる

 キンッと甲高い音ともに俺の剣は跳ね返された。ダメージ自体はかなり入っているようで、ゴーレムの硬い岩の身体にヒビが入っている。あと一発か二発の攻撃で倒せるはずだ。

 だが――これだけの力を手に入れても、まだゴーレムを一撃では倒せないか……。


 左眼の力を手に入れてから、俺の魔力総量は劇的に増えている。その魔力を使って攻撃力を高めているのだが、それでも攻撃力が足りないということらしい。

 ゴーレムは能力の全てを防御力と体力に極振りした魔物だ。


 攻撃力や移動速度は大したことがないので、時間をかければ誰でも倒せる。ただ、百匹を倒すにはそれだとあまりにも非効率すぎるので、クエスト難度はCランクとなっている特殊な依頼ではある。


 その後二発ほど攻撃を加えるとゴーレムは倒れた。

 ふう、と一息ついたところで、四人を見る。


 ミリアは弓を三本ずつ放ちながらの移動攻撃。ゴーレムは足が遅いので、弓の攻撃だと一撃も喰らわず安全に狩りをすることができる。ただ、攻撃力の方はそれほど高くないようで、手数は多い。


 次にシロナ。シロナは中級魔法の『ファイヤーアロ―』を使っているようだ。実際の弓矢を使うか魔力生成した矢を使うのかの違いはあるが、ミリアとほぼ同じ感じだな。魔力の消費を抑えるためか、上級魔法は使わない方針らしい。こちらも手数は多い。


 そしてルビス。自身の手足を武器としたファイタープレイをしていた。近接戦闘では武器を使うことが多いが、稀にこういった素手での戦いをする冒険者もいる。

 魔力を纏わせた手足が青白い光を帯びて、ゴーレムに当たるごとに強烈なダメージを与えていた。ほとんど一撃で倒しているが、稀に撃ち漏らすこともあるらしい。


 最後にジーク。俺と同じ剣使いではあるが、ジークは大剣を使っているのが特徴的だ。自分の身体と一見不釣り合いな剣を力強く振り、全ての敵を一撃で仕留めていた。大剣は扱いが難しく要求される能力値も高いのだが、うまく使いこなせれば一撃の重さはピカイチだ。


 ――さすがBランク冒険者。

 賞賛の言葉しか出てこない。


 俺が四人を観察していると、ジークが戦闘を一時中断し、立ち止まった。


「どうかしましたか?」


「いや、さすがBランク冒険者だと思ってな。この硬いゴーレムを一撃で仕留めるのは難しいからな」


「確かに防御力、体力ともに高いですが……シオン君の攻撃力なら十分一撃で倒せるはずですよ」


「……本当か? 大剣ならともかく、普通の剣だぞ?」


「ゴーレムを倒すなら大剣は使いにくいです。シオン君のミスリル・ソードがベストだと思います。良ければアドバイスくらいはしますが」


 Bランクの剣使いからのアドバイス。なかなかこんな機会はない。即答だった。


「頼む、教えてくれ」


「わかりました。……では、こちらへ」


 言われて、ジークの隣に立つ。


「シオン君の剣技は文句の付け所はほとんどありません。良く言えば理想的、悪く言えば教科書的なんです」


「確かに、冒険者学校で基礎を叩きこまれたからな。教科書的ってのはそうだと思う」


「でも、実践では足場は悪いし敵の硬さも大きさもスピードもバラバラです。……なので、敵の種類に応じて戦い方を変えるというのが、僕のアドバイスです」


 ……なるほど。一見当たり前のことを言っているようにも感じられるのだが、そういう当たり前のことが見落としがちになる。

 俺はパワーアップのことしか考えていなかった。攻撃力だけに頼らない戦闘スタイルなら、格上の敵とも戦いやすくなる。ヘルハウンドだって、あんな無茶をしなくても倒せたかもしれない。


「百聞は一見に如かず……理屈は後から教えるとして、まずは僕が手本を見せるので、シオン君は見学してください」


 そう言って、ジークは目の前のゴーレムに一瞬で近づき、剣を振るう。

 横薙ぎに振るわれた剣は、サクッと簡単にゴーレムの腹を切り裂いたのだった。

 その一撃でゴーレムの体力は燃え尽き、その場に崩れる。

 まるで神業だった。ゾクリと鳥肌が立つ。


 ジークは止まらず二体目、三体目のゴーレムを葬り、息も切らさずニコニコという表情を崩さない。


「どうです? 何かわかりましたか?」


「何をやっているかまでは理解できた。……けど、それがどう繋がって結果に結びついているのか頭が追い付かない……そんな感じだな」


「初見でそれなら上出来です。……というか、これだけで何をやっているのかわかるとは……シオン君はやはり眼が良いです」


「まあ、眼だけはな」


 スロー再生のように映像が流れるので、神業のような一手でも基本的には見切ることができる。ヘルハウンドとの戦いを経験して、ある程度動きを予測することもできるようになった。そのおかげで、ジークの動きにもなんとかついていけている。


「では、早速ですが理解できたところまでやってみてくれませんか? 良いところ、悪いところを指摘するので」


「わかった。じゃあ、行くぞ――」


 俺はミスリル・ソードを片手に持ち、一匹のゴーレムに迫る。

 ジークの動きを思い出す。頭の中で動きをトレースしながら、自分の身体を動かすという作業。……これがなかなか大変だ。難しいというわけではない。かなり身体を捻ったり、細かな手の動きが加わることで、負担が大きいのだ。


 身体の柔軟性という部分も、見直さないといけないのかもしれない。

 ゴーレムの身体に剣を横に一閃し、切り裂く。

 ジークの攻撃とほぼ同じ要領で、大ダメージを与えることができた。


 ふらふらと着地し、立ち止まる。


「す……すごいですね。もうほぼ完璧じゃないですか! さすがはシオン君です」


「動きを丸コピしただけだ。何をやっているのかまでは……ん? もしかして……」


 ジークの戦いと、さっきの俺の経験を重ねる。

 共通する部分と、共通しない部分。その両方から導き出される答え。大剣でも普通の剣でも通じる結論。

 それは……。


「さっきのは……もしかして魔力の流れを斬ってたのか……?」


「……大正解です。魔力の流れを斬るというよりは、魔物の身体にある魔力経路を斬ることで、結果的に流れを止めてしまうという感じですね」


「ジークは……魔力の流れが見えるのか?」


 ジークは両手を大げさに振って、


「いやいやまさか。魔力感知なんて選ばれし天才しか使えませんよ。僕は経験と勘で魔物の特徴から魔力経路の目星をつけるんです。経路は複数ありますが、一本でも運よく斬ることができればかなりスムーズに事が運びますよ」


「なるほどな……そういうことか。よし」


 説明を聞いて、完全に理解した。

 実を言うと、俺は一度だけ無自覚にこの技を使ったことがある。


 赤毛のケルベロスとの戦いで、この眼が覚醒し一撃で倒せたあの時。俺はケルベロスを構成する皮膚の連結部分を切り裂くようイメージした――それは、魔力経路をも同時に斬っていたのだ。


 あの時は、あれがベストだと無自覚に知っていた。身体が勝手に動いた。

 ……理屈の裏付けがあれば、またあれを再現できる。


「ちょっと試したいことがあるんだ」


 ぽつりと呟き、俺はゴーレムの前に躍り出る。数は二匹。一匹ずつ戦うのがセオリーだが、迷わず二匹集まっているゴーレムを選んだ。


 俺には、魔力感知の力がある。

 魔物の中に流れる魔力の大きさ、強さが、文字通り眼に見えるのだ。

 よくよく眼を凝らしてみれば、魔物の中に流れる魔力が管のように見える。

 そこを、斬る。


 縦に、横に、時には斜めから。

 最適な一撃を繰り出すことで、軽く舐めるように剣を振るだけで、次々と敵が倒れていく。


「す、すごいですよ……もう、こんなの人間離れしています! ……ゾクゾクしてきました!」


 驚いているのはジークだけではない。

 近くでゴーレムと戦い続けていたパーティメンバーの三人も、異様な光景に目を奪われていた。


「シオン強すぎだよ!?」


「あの硬いゴーレムを瞬殺……凄すぎるわ!」


「ついに賢者の力を思い出して……! さすがです、シオン様!」


 軽く触れるだけでゴーレムが倒れるものだから、クエスト要件である百体を達成するのは、至極簡単だった。

 辺り一面にはゴーレムが山のように倒れている。


 どうやら、俺はとんでもない力を手に入れてしまったらしい。

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