第16話:新米冒険者、クエストに出る
「ジークが来てくれるというなら心強いんだが……本当に良いのか?」
「ソロの方が色々と気楽ですけど、たまにならパーティプレイもいいものです。そちらのお二人からも許してもらえればですけどね」
「悪い人じゃないなら私は構わないわ」
「反対する理由がありません」
……ということで、全員一致により決まったらしい。
「さて……ユニオール祭は明日なのですが、今のうちに練習しますか?」
「練習? 何をだ?」
「パーティを組む以上しっかりとした連携が必要です。シオン君たちは普段通りで問題ないですが、僕は初めてなので」
「なるほど、確かにそれは必要だな」
「あっ、でも今日はこの後ウィンドウショッピ……むぐぐっ」
余計なことを言おうとするミリアの口を押えて、
「よし、じゃあ今からやるか」
強引に決めた。
◇
俺たちのパーティは、色々と特殊な事情がある。
その一つに、パーティリーダーの不在だ。もともと二人組のパーティだったから細かいことは何も決めていなかったらしく、書類上のリーダーはシロナだが、当人にその自覚はない。かといってミリアがあるのかと言えば微妙な感じだし、そもそも任せるのは少々危なっかしい。
消去法的に俺がリーダー代わりになってしまっている。それで不都合は生じていないものの、あまり良いことではない。
報酬に関してはリーダーがいちいち分配するのではなく、全部その場で割り振ってしまう方式なので、これについてもリーダー不在で困ることはない。
ジークは一時的なパーティ加入なのでこのままで良いのだが、今後人数が増えてくると、このままじゃいかなくなりそうだ。
――ということを、冒険者ギルドでジークの一時加入申請書を書いている途中で考えていた。
申請書を書き終えて受付嬢に渡す。
実戦練習をするということなので、横の掲示板に移って手軽なクエストを探し始める。
「ジークには悪いが、今日は簡単なクエストにさせてもらうぞ。このCランクのクエストとか……」
「その方が都合がいいです。あくまでも練習ですから」
「じゃあこれで決まりだ」
選んだクエストは、ゴーレムの討伐クエスト。ユニオール村を南に進んだ場所に石や岩ばかりの荒廃した場所があるので、そこに向かうことになる。
「ゴーレムって石みたいな魔物?」
「石っていうか岩みたいなやつじゃないか?」
「あれって魔法の無駄打ちみたいで嫌いなのよね」
「噛み砕いたらいいんですよ?」
「なるほどそうか……って、噛み砕くってどういうことだよ!?」
きょとんとしているルビス。
俺とミリアとルビスは引いたような感じで、ジークは疑問符を浮かべている。
「普通に……噛んだらバリバリってなりますよね? 美味しくはないですが」
「ならねえよ! そりゃ見た目的に美味くはないだろうな!」
……はぁ、やれやれ。
「ルビスさんは冗談が上手いんですね」
「ジーク、今のは冗談じゃないぞ?」
と、俺がジークを呼び捨てにしているのは、パーティを組む時にそうお願いされたからだ。でもジークは俺たちを呼び捨てで呼ばない。
変わった主義の人はどこにでもいるので承諾したが、なんか恐縮してしまうな。
「では本当に?」
「まあ、そのうち分かるよ。多分村を出て十分くらいしたらな」
「はぁ……そうなんですか?」
クエストが決まったということで、受付嬢に手続きをしてもらう。
手続きが完了すると、すぐにユニオール村の南を目指した。
村を出てから十分ほど歩いて、大分離れたところで、ルビスに声を掛ける。
「ルビス、ここから飛べそうか?」
「どこでも大丈夫ですよ。いつでもお好きな時に」
「じゃあ、近くに人の気配もないし、頼む」
「分かりました」
ルビスの身体が白いもやに包まれ、肥大していく。
次第にもやが晴れていくのだが――その姿を見て驚いた。
いつもとは違う。赤い翼はいつものままだが、大きなローブを装備しているのだ。
赤いローブに包まれたドラゴンなんて見たことがない。
そのデザインは俺が今日何度も見た竜の刻印が入ったもの。
「そんなにローブ大きかったか?」
「身に着けている物も一緒に伸縮するので」
「……なるほど」
ルビスが翼を下ろして、乗り降りしやすい姿勢になる。
そこに、迷わず俺とミリア、シロナが乗り込んでい行く。
ルビスの変身を始めて見たジークは呆けた顔で棒立ちしていた。こんな顔もできるんだな。
「何してるんだ? 早く乗ってくれ」
「すみません……それにしても驚きました。普通の女の子だと思っていましたので」
ルビスが翼を広げて、空へと飛び立つ。
どんどん高度が上昇して、地上が小さくなっていく。
「まあな。これは秘密で頼む」
「分かりました。たとえ口を滑らせても信じてくれそうにないですけどね」
「Bランクでもか?」
「ソロ冒険者はあまり信用がないんですよ」
「……そんなもんか」
目的地のゴーレムが根城にしている場所は、『静寂の荒野』と呼ばれている。一般の通行人はほ通らない。そのため放っておくとどんどん魔物が増え続けるので、たまに冒険者に依頼が来るという具合だ。
空の旅は短い。
今回は三十キロくらい離れていたはずなのだが、もう着いてしまった。
上空からは大量のゴーレムが蠢いているのが見える。
今回の討伐数は五人合計で百匹。
百匹と聞くと少なく感じるかもしれないが、ゴーレムは一匹倒すだけでもかなりの時間がかかるので、日が暮れるまでなんとか間に合うかどうかという感じだ。
比較的ゴーレムが少ない場所に着地し、俺たちはルビスの背中から下りる。
「今回はパーティの連携が目的なんだ。ルビスも人型で頼む」
「わかりました」
ルビスが人型に戻ったタイミングで、五匹のゴーレムが一気に近寄ってきた。
「じゃあ……まず掃除か。一人一匹ずつ処理してくれ」
五人が散り散りになり、一匹ずつゴーレムに立ち向かう。
俺も剣を抜き、魔力を集中させる。
持てる力の全てを使って、一撃を叩きこんだ――。





