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人生詩集(3)  作者: 多谷昇太
8/8

ねぬなはの…

‘ねぬなわの苦しや永き寝ぬわざの根をば断ちなむ身儺底もぐる’


末世ともなれば、

鬼も最低、ちんけになりまして、

たとえばグアンタナモ収容所のように、

虜囚を、人を眠らせません。

またたとえば私のように、

ヤクザのストーカーどもなどに憑りつかれまして、

16年間も睡眠妨害を被ったりもするのです。

だから、そりゃもうあなた、

ただ、ただ、眠くって辛くって…

困窮のあまり、とうとうガンになぞなったりして。

死の影におびえながら、

9時間におよぶ大手術を受けました。


いま私は手術後のICUの部屋にいる。

ひどい熱さと寒さが交互に襲って来て、

大汗をかいたり、悪寒でガタガタふるえたりして、

また何より痛くって痛くって、

いま死ぬ…と、本当にそう思いました。

(男でも泣いたりして?)

しかしそれでも離れ得ぬこの身体を、

因果と思ったりもするのです。

そんな折り衝立を隔てた隣りのベッドから、

二人の婦人の話し声が聞こえて来ました。

「ううん、そうじゃないの。あの人(たぶん私)は…」「そうそうそう、だから私は云ったのよ…」

取り止めのない会話が際限なく続きます。

しかしちょっと待てよ、ここは面会謝絶の、

手術直後のICU処置室のはず。

ではいったい…?

わかりました。一人二役。

私同様手術を終えたご婦人が、分裂気味に一人二役を演じていたのです。

知ってました?

死の恐怖や、堪えられない苦しみを受けたりすると、人はときにおかしくなるって。

かわいそうに…私は自分の苦しみを一瞬忘れて、

婦人に同上しました。

するとなぜか身体が少し楽になって、

そのままスーッと、甘美な甘美な、

久しき安眠の中に落ちて行き、そ、う、に…

ガタン! ん…?

眠りそうになるとその都度、

誰かが何かを叩いて私を起こします。

はてまたヤクザ? ちんけ鬼?

いいえ違いました。隣りのご婦人でした。

おそらく霊視ができるのでしょう。

私が幽体離脱(=眠り)をしかけると、

何かでベッドのフレームを叩いて起こしていたのです。もちろん婦人など知らぬ人、

私の経緯など知る由もない。ではなぜ…?


ああ、鬼め! こんなことを、こんな時にまで!


知ってました?

鬼や悪霊たち(死霊も生霊も)が、

時空や人の身体の別を越えるってことを。

超常的だってことを。

憑りつかれた者が全面降伏するまで、

彼らは決して攻撃を緩めません。死ぬ時でさえ、

責め苦を与え続けます。また人の数を厭いません。

それを称して何と云いましょうか。

イジメ? 村八部? ブログ炎上?

私で云えばチンピラストーカーどもに実に16年間

(ということはほぼ一生)、憑りつかれたままです。


そこで私は、

いっそ自分も超常的になろうと思うのです。

ストーカーからいくら逃げても逃げても、

世間のイジメを厭うても、逃れ、避けられません。

でも自分の心を変えるなら、

きっと、彼らから離れられるでしょう。

ですから自分の業に深く深く潜り、その根をば、

断ち切ります!

最後にもう一度言挙げ歌を詠みましょう。


‘ねぬなわの苦しや永き寝ぬわざの根をば断ちなむ身儺底もぐる’

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