ねぬなはの…
‘ねぬなわの苦しや永き寝ぬわざの根をば断ちなむ身儺底もぐる’
末世ともなれば、
鬼も最低、ちんけになりまして、
たとえばグアンタナモ収容所のように、
虜囚を、人を眠らせません。
またたとえば私のように、
ヤクザのストーカーどもなどに憑りつかれまして、
16年間も睡眠妨害を被ったりもするのです。
だから、そりゃもうあなた、
ただ、ただ、眠くって辛くって…
困窮のあまり、とうとうガンになぞなったりして。
死の影におびえながら、
9時間におよぶ大手術を受けました。
いま私は手術後のICUの部屋にいる。
ひどい熱さと寒さが交互に襲って来て、
大汗をかいたり、悪寒でガタガタふるえたりして、
また何より痛くって痛くって、
いま死ぬ…と、本当にそう思いました。
(男でも泣いたりして?)
しかしそれでも離れ得ぬこの身体を、
因果と思ったりもするのです。
そんな折り衝立を隔てた隣りのベッドから、
二人の婦人の話し声が聞こえて来ました。
「ううん、そうじゃないの。あの人(たぶん私)は…」「そうそうそう、だから私は云ったのよ…」
取り止めのない会話が際限なく続きます。
しかしちょっと待てよ、ここは面会謝絶の、
手術直後のICU処置室のはず。
ではいったい…?
わかりました。一人二役。
私同様手術を終えたご婦人が、分裂気味に一人二役を演じていたのです。
知ってました?
死の恐怖や、堪えられない苦しみを受けたりすると、人はときにおかしくなるって。
かわいそうに…私は自分の苦しみを一瞬忘れて、
婦人に同上しました。
するとなぜか身体が少し楽になって、
そのままスーッと、甘美な甘美な、
久しき安眠の中に落ちて行き、そ、う、に…
ガタン! ん…?
眠りそうになるとその都度、
誰かが何かを叩いて私を起こします。
はてまたヤクザ? ちんけ鬼?
いいえ違いました。隣りのご婦人でした。
おそらく霊視ができるのでしょう。
私が幽体離脱(=眠り)をしかけると、
何かでベッドのフレームを叩いて起こしていたのです。もちろん婦人など知らぬ人、
私の経緯など知る由もない。ではなぜ…?
ああ、鬼め! こんなことを、こんな時にまで!
知ってました?
鬼や悪霊たち(死霊も生霊も)が、
時空や人の身体の別を越えるってことを。
超常的だってことを。
憑りつかれた者が全面降伏するまで、
彼らは決して攻撃を緩めません。死ぬ時でさえ、
責め苦を与え続けます。また人の数を厭いません。
それを称して何と云いましょうか。
イジメ? 村八部? ブログ炎上?
私で云えばチンピラストーカーどもに実に16年間
(ということはほぼ一生)、憑りつかれたままです。
そこで私は、
いっそ自分も超常的になろうと思うのです。
ストーカーからいくら逃げても逃げても、
世間のイジメを厭うても、逃れ、避けられません。
でも自分の心を変えるなら、
きっと、彼らから離れられるでしょう。
ですから自分の業に深く深く潜り、その根をば、
断ち切ります!
最後にもう一度言挙げ歌を詠みましょう。
‘ねぬなわの苦しや永き寝ぬわざの根をば断ちなむ身儺底もぐる’