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人生詩集(3)  作者: 多谷昇太
7/8

月は香具弥に

中空から雅楽が聞こえて来そうな

今月今夜、中秋の名月。

団子を置いてススキも飾り、さて…

しかし月は雲間に隠れて出て来ません。

雲を裏から照らしているばかり。

ついに今夜はお出ましになりませんか?

年にたった一度の儀式、習わしだなんて、

そんな薄情で勝手な人都合、

お月様はきっとすねておいでになるのでしょう。

前なる雲は几帳か蔀、

それでもお月様は、その間から少しだけ、お顔を出して見せます。都度の下界の大騒ぎ、喜びよう。

日頃の‘夜離れ’のうっぷんを、

月は晴らしているのでしょう。


さても人焦がれたり、この時に、

雲を飛ばし蔀をはねて、くまなく見せるその姿。

これぞ満願成就、円満具足。われら皆道長となってこれを愛で、褒めそやします。

誰ぞまず「雲立てて見せみ見せずみ局なす月は香具弥に愛嬌づきたり」などと歌詠めば、

空なる月も嬉しそう…。


(科学的詩境へと)


地球は夫、月は妻。

永久に変わらぬ夫婦と見るならば、

地球が核で、それを廻る電子を月と見るならば、

地球と月は二つで一つ、

いずれ欠けても存えません。

古人いにしえびとの心直ぐなれば、

さほどの強き縁をば知らず感じていたのでしょう。

中天かかる我妹子と、

つま恋うみずからの写し絵と、

夜ごとに愛でざるということはなかったでしょう。


時過ぎて、人の心はすさびはて、

万生を生かす天のはからい、ことわりを、

思うことなどもうしない。月さえ地球の衛星、

ただの物体と、冷たい心で見るばかり。

一糸乱れぬ天体の動き、

いわんや寄りそうこの月に、

生かされていることを忘れていいですか…?


妻を想わぬ夫のあるものか、

夫を慕わぬ妻のあるものか、

天なる香具弥をそのままに、

ひとり放っておいては、かわいそう…。

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