表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生詩集(3)  作者: 多谷昇太
2/8

埃の下の命

無人の廃墟のようなアパート。

その一室に入る。夢の中でのことだ。

そこは昔の、子供の頃のぼくの住まいで、

何十年という時の埃に埋もれながらも、

心の中ではしっかりと、消えることなく、残存してくれていたのだった。

忘れてしまっていた数々のよきものが、

思い出の品々が、埃の下から愛らしいメロディを奏ではじめる。

メランコリーの?ノスタルジアの…?

然り。否定はすまい。

ぼくはもう年老いているし…。


でもひとつだけ奇妙なのはそこが、

つまりアパートの外の世界が、

ヨーロッパだということ。

ぼくは若いころ人生をかけて渡欧し、

絵描きに、詩人になろうとした。

無謀にも人間存在の意味を、人生の意義をさぐろうとした…。

しかし夢果たせずに帰国し、

そのまま無為の人となっていたのだった。

あれから長い年月が経った。

もうすべては、

とうに終わってしまったはずなのに…?


しかし忘却の埃の下では、

命が、まだ息づいていた。

ぼくの中のよいものをしっかりと守って、波動を送り続けてくれていたのだった。

ぼくの命は、魂は、今もヨーロッパに居て、

「なにくそ、このままでは国に帰れない。ぼくは、必ず、ここで…」と、

気負い続けていたのだった。


わかったよ、魂よ。

君は生まれ故郷のアパートに、

ぼくの原点に、舞い戻ってくれていたんだね。ヨーロッパをともなって。


年を取ったのはぼくの身体と意識だけで、

魂が老いることは、負けて投げ出すことは決してなかった。

ぼくは、この積りに積もった埃をはらいのけて、もう一度、

そしてこんどこそいつまでも、

君とともに歩み続けることとしよう。


〔※年月定かならず。六〇前後の未だ無明の中で〕

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご感想などありましたらぜひお寄せください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ